クルーズブームで、クルーズ人口が減る日本 その特殊な構造

日本のクルーズブームは日本人ではない?

 またこのクルーズ統計をしっかり読むと分かるのですが、統計のまとめ方が、外航クルーズと国内クルーズ、日本船による外航クルーズと国内というように、分類の仕方が多岐に渡っており、クルーズ事業に相当な知識を持った人でないと分析の意味が分かりにくいのが特徴でもあります。

 統計の取り方にクレームをつけているわけではなく、ここにこそ日本のクルーズ会社が縮小を続け、外国船社に伸びを期待するしかない秘密が隠されているのです。

 海外のクルーズ統計では国内クルーズ、外国クルーズという形で区分けしている国はありません。なぜならば、太平洋の真ん中にあるハワイ以外に国内クルーズを生業にしているクルーズ船社など、ほとんどないからです。

 ところが日本は、ピースボートを除くすべての船社が日本国籍船。となれば日本の陸上の諸法規や国内の海事諸法規がそのままクルーズ船にも適用されます。船員雇用、カジノなどのサービス、海上運送にかかわる諸規則……。細かい規制は、運航コストの増加に跳ね返って行きます。国内クルーズを軸にし、日本人だけを相手にしてきた日本のクルーズ会社は、これらのコスト負担を乗船料に転嫁、世界でも類例のない高い乗船料でクルーズを展開しているのです。

「外国船が増えたにもかかわらず、日本のクルーズ人口は減った!」と書きましたが、実は外国船の日本発着クルーズに参加するために来日する外国人は、2万9700人と前年比5倍にも増えていて、これを足すとクルーズ人口は26万人、6.5%の増にもなるのです。さらに中国から客船に乗って日本にやってくる乗客を含めれば、日本近海のクルーズが大きく発展していることは間違いありません。つまり日本にもブームは来ているのです。

 日本のクルーズ会社は、これらブームを取り込もうとするのでしょうか、見て見ぬふりでやり過ごすのでしょうか。また、このブームとは裏腹に減便を繰り返して行くという、厳しい未来が待っているのでしょうか。

【了】

Writer: 若勢敏美(船旅事業研究家)

1949年生まれ。業界紙を経て1980年、海事プレス社へ入社。1989年、雑誌『CRUISE』創刊に参画し、翌年から編集長。2008年、海事プレス社の社長へ就任。2012年退任。この間、取材、プライベートを含め35隻の客船に乗船して延べ55カ国を訪問。地方自治体や業界団体主催の講演会などに多数出席。

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