“強きアメリカ”象徴の船、復活か いまだ“最速”の称号持つ64歳

60年以上前の船、本当に復活可能なのか? 期待と懸念、様々な声

 そんななか今年2016年2月、同船を購入すると発表したのがクリスタル・クルーズです。元々は日本郵船が設立した世界一ともいわれる豪華さで知られたクルーズ会社ですが、昨年3月にマレーシアのカジノ王・ゲンティングループに買収されています。

 同グループはクリスタル・クルーズを買収したのち、高級タイプのヨットクルーズやリバークルーズへの進出、クルーズ船寄港地への輸送を主な目的にした航空会社の創設、ドイツの客船造船所ロイドベルフトの買収、ラグジュアリークルーズ船分野における9万総トンという豪華船3隻の建造など、矢継ぎ早に事業拡大策を展開。続いて発表したのが「ユナイテッド・ステーツ」の復活でした。

 発表された彼らの構想によれば、現在はほとんど消滅しているアメリカ国籍の客船として「『ユナイテッド・ステーツ』の名を誇れる伝統的で、しかし現代の最新技術を盛り込んだ」形で再建することを目指している、とのこと。

 具体的には、往時の雰囲気を伝えるプロムナードデッキやナバーロラウンジは残し、船型は6万総トン、客室400、旅客定員800人で、全客室を32平方メートルのダイニング付きスイートとする豪華仕様へ改造。メインエンジンも蒸気タービンから、省エネで環境に優しい最新型へ換装することなどが目指されています。

 この構想が発表されてから、アメリカのクルーズファンのサイトには、歓迎と期待の言葉がたくさん書き込まれています。

「就航後、第5航海に当たるニューヨークからサザンプトンまで乗船しました。この話が本当になることを願ってやまない」
「クリスタルは私の一番好きなクルーズ。この船が就航するまでとても待てない」
「私が乗ったのは12歳のとき、いまほとんど70歳よ。当時、両親は私が(船の上で)サンドウィッチばかりオーダーしていたので、信じられないと怒っていたのを思い出すわ」

 ただその一方で、ノルウェージャン・クルーズ・ラインという別のクルーズ会社が、1990年代に同船の再就航構想を検討したものの資金不足などで中止になったことを知っているクルーズファンもおり、次のような意見も。

「この船には大量のアスベストが残っているはず。これを除去して再就航できるのか心配」

 また、こんなコメントも見られます。

「パナマ籍でなく、是非アメリカ国籍の船で」
「アメリカ籍では、労働組合がうるさくて無理だろう」

 国の名を冠した伝説の客船「ユナイテッド・ステーツ」、その復活にクルーズファンの関心は高まる一方。論争は、しばらく収まりそうにありません。

【了】

Writer: 若勢敏美(船旅事業研究家)

1949年生まれ。業界紙を経て1980年、海事プレス社へ入社。1989年、雑誌『CRUISE』創刊に参画し、翌年から編集長。2008年、海事プレス社の社長へ就任。2012年退任。この間、取材、プライベートを含め35隻の客船に乗船して延べ55カ国を訪問。地方自治体や業界団体主催の講演会などに多数出席。

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