本当は怖い鉄道の架線

切れた架線が原因の大事故も

 鳥が感電しないのは、簡単にいうと同じ1本の架線にとまっているからです。

 例えば、A点とB点を結ぶ架線があったとします。そしてその途中に鳥がとまったとします。するとA点とB点のあいだには、まっすぐ架線だけを通るルートと、途中で鳥の身体を通るルートの2種類ができます。

 しかしこのとき電気は鳥の身体には流れず、架線をまっすぐ通り抜けます。鳥の身体と比べ、架線のほうが電気抵抗が低いからです。そのため鳥は感電しません。同じ理屈で、仮に同じ1本の架線に人間がぶら下がり、ほかにどことも接触していない場合、人間は感電しません。

 しかしそのとき、身体が地面に触れるなどすると感電します。鳥も同じで、架線にとまっている際に何かの拍子で別の電線に触れてしまうと感電します。

 電気は電圧の高いほうから低いほうへ流れる性質があり、そうした電圧の高低差がないと電気は流れません。今回の事故で例えると、架線と地面という電圧が異なるものを釣り竿を持った人間が接続したため、電圧の高い架線から電圧の低い地面へ、釣り竿と人体を通り電気が流れてしまった、というわけです。

 鳥が感電しないのはそうした理由があるためで、決して架線が怖くないわけではありません。もし架線が切れ、垂れ下がっているところに車両が接触すると電気が伝わり、車両火災が発生することもあります。1951(昭和26)年に神奈川県の桜木町駅で発生した事故では様々な要因が重なり、約200名もの死傷者が出てしまいました(「桜木町事故」)。これをきっかけに、電車の屋根は絶縁性を持つよう省令で定められています。

 普段意識することは少ないかもしれませんが、架線と電気、恐ろしいものなのです。その近くにいるときは、持ち物が触れたり、飛んでいって架線に引っかかったりしないよう、くれぐれもご注意ください。

【了】

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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