乗れない臨時列車の運行を告知 その理由に見える地方ローカル線の今

もし故郷から鉄道が無くなったら

 くま川鉄道はかつて、国鉄の湯前線でした。しかし1987(昭和62)年、輸送量が少なかったことから「第3次特定地方交通線」として廃止の対象になります。そこで路線を存続させるため、地元自治体などが出資して第三セクター鉄道が立ち上げられました。それがくま川鉄道です。

 そうした背景を持つくま川鉄道によると、今回の新型車両導入についても国や県、そして地元自治体――すなわち沿線地域の人々による協力があって実現できたそうで、今回の臨時列車運行と告知の目的は「多くの関係者や地域の人にお披露目すること」といいます。いわばそうした「支援者」に新車の導入を報告し、感謝を伝えるという意味が、この臨時列車にはあったのです。

 現在、車社会化や過疎化、少子化などで厳しい状況にある地方の第三セクター鉄道。それに関わる全国の自治体では、沿線の人々が鉄道の必要性について改めて認識し、「自分たちの鉄道」を地域全体で守っていこうという「マイレール意識」の醸成がひとつの課題になっています。普段は鉄道を利用しない人にも鉄道がなくなったらその地域がどうなるか考えてもらい、地域全体で守っていく必要があるからです。国土交通省東北運輸局青森運輸支局の「運輸観光関係用語集」には、次のようにあります。

「マイレール」:鉄道沿線の自治体や住民等が一体となり、自分たちが利用する鉄道は自分たちで守るという目的を持って、需要喚起への積極的な取り組み等を通じ、鉄道沿線地域住民の意識高揚を図るもの。

 くま川鉄道が今回行った「お披露目列車」の運行は、そうした「マイレール意識」の醸成につながったかもしれません。

【了】

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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