島国日本の造船、いま大きな岐路に なぜ困難を極めた三菱・大型客船

三菱重工の大型クルーズ客船「AIDA Prima」が建造の遅延、度重なる不審火、1800億円以上の赤字という難産のすえ、ようやく発注者へ引き渡されました。同社は大型客船を製造できる日本で唯一の企業ですが、いったいそこで何が起きているのでしょうか。日本から消える大型客船建造の灯火、それをいま、否定しきれない状況になっています。

非常な「難産」になってしまった大型クルーズ

 2016年3月16日と22日、三菱重工業が主要新聞5紙に掲載した全面広告が話題を呼んでいます。同社の製品群をカラーで紹介したものですが、建造の大苦戦が伝えられていたドイツ・AIDAクルーズ社向け客船「AIDA Prima」を完成(14日)させ、第2船を進水(21日)させたばかりのタイミングにもかかわらず、そのラインナップには「船」がありませんでした。

 三菱重工は“客船建造をもう諦める”ということなのでしょうか。同社は、大型客船を建造できる日本で唯一の企業。「あきらめる」ということは、日本からその灯火が消えてしまうことになります。

 建造中の火災、設計変更などによって1年遅れた「AIDA Prima」(12万5000総トン、乗客定員3300人)の引き渡し式は大方の予想通り、一般にも、記者団にも公開されないまま行われました。三菱は同船の写真とともに1枚のニュースリリースで、この「ヒペリオン(土星の惑星)クラス」と名付けられた「新生代の客船」をドイツ・ハンブルクへと送り出したのです。

三菱重工から引き渡され、ドイツに向けて出航したクルーズ客船「AIDA Prima」(写真出典:AIDAクルーズ)。

 船上にはAIDAクルーズ社のクルーほか、多くの造船所スタッフが乗り込み、“やり残した艤装”の仕事を続けながらの引き渡しでした。セレモニーが公開されなかったことに三菱の苦労ぶりが伺えるとの声もあります。

 先述のように、建造にあたりさまざまなトラブルに見舞われ、引き渡しが大きく遅れたこの船。日本を代表する企業のひとつともいえる三菱重工で、いったい何が起きていたのでしょうか。

 2011年夏の受注契約から、引き渡しまで4年半。当初の納期から完成が1年遅れた理由について、同社では2回にわけてその原因を説明しています。

 ひとつは2014年に説明された、「プロトタイプ(原型)建造に伴う困難」です。「新シリーズ船を初めから設計し、取り組む」という経験のない仕事だったために、AIDAクルーズ社向け客船2隻の建造工程が守れないことを明らかにしました。

 もうひとつは2015年に説明された、「クルーズ客船の船室とそのほかの区画に関連する設計作業量が莫大であり、重大な設計変更がなされ、資材調達や建造の遅延に繋がった」。その損失は2013年以降、4度にわたって経理処理され、結局、これによる赤字は1860億円に膨れ上がっています。

 この間、造船現場では、海外からの応援や未経験者を含めて4000人とも5000人ともいわれる下請け工を投入。さらに今年1月には3回にわたる不審火事件が発生。「現場の意識はずたずた」(長崎造船所の現場スタッフ)というなかで、苦闘が続いていました。

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