島国日本の造船、いま大きな岐路に なぜ困難を極めた三菱・大型客船

日本造船の雄、三菱重工がなぜ? 活かしようがなかった経験

 三菱重工は以前にも、「ダイヤモンドプリンセス」(2004年就航、11万6000総トン)という大型の輸出クルーズ客船を建造したことがあります。ただ、その経験を活かすことは難しい状況でした。

「ダイヤモンドプリンセス」は今回の「AIDA Prima」と違い、すでに欧州で建造された原型(プロトタイプ)が存在。それを同社の長崎造船所・香焼工場の生産システムにあわせて設計しなおせばよかったため、「設計陣も完成船のイメージがしやすかった」とされています。そして、建造中に火災が発生したこともありましたが、出来映えには高い評価が与えられました。

 しかし三菱は火災事故に懲りたのか、それ以降、10年近く客船商談から撤退。このあいだに設計、建造経験のある現場要員が退職し、「『AIDA Prima』は事実上、“初めての客船”みたいなもの。さらに“プロトタイプを創る”という困難さ」に遭遇。大変な“難産”になってしまった、というわけです。

「AIDA Prima」の出来栄えについては、今年2月ごろからAIDAクルーズ社のウェブサイトで公表されていますが、18階建てのテーマパークが洋上に出現したかのような、目を見張る大型のアトラクション施設が満載されています。

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18階建て、乗客定員3300人、12万5000総トンを誇る大型クルーズ客船「AIDA Prima」(写真出典:AIDAクルーズ)。

 アトリウム、3階吹き抜けの多目的劇場。12の食堂、18のバー。最近の客船で流行しているリラクゼーション施設は、3100平方メートルの「Body&Soul」区画として。さらにディスコ、カジノ、ビールの醸造所もあります。

 さらに、寒いヨーロッパの冬でもクルーズできるよう、最上階に大きなガラスドームを設け、その内部にはウォーター・スライダー付きのプールや、アイススケートリンクも備えています。

 もちろん省エネ、環境対策も最先端を目指し、空気循環によって船体を泡で包み水の抵抗を減らす「MALS」と呼ばれる省エネ技術や、LNG燃料を使えるようにするといった革新的な仕様を装備しています。

 そうした運航性能に係わる部分について、造船所としては“手慣れた仕事の範囲”だったようです。工程が大混乱したのは、まさに“テーマパークを洋上に造る”かのような、アトラクション施設の設計や工作の困難さにあったといわれています。

 この「造船の仕事では経験したことのない大型のアトラクション」と、またこの10年間で急激に進歩したIT技術を用いる船内LAN環境の整備などが“想定外の困難さ”で、「AIDA Prima」建造の混乱に繋がってしまったとされています。

 しかし、そうした「テーマパークのような客船」は、欧州の造船所ではどんどん造られています。なぜ三菱重工では、上手く進まなかったのでしょうか。

 このことについては「10年間の空白」、つまり「ダイヤモンドプリンセス」の火災以降、「社内でも客船受注の話など出せるものでなかった」(以上、船舶部門OBの話)という雰囲気のなかで、世界の客船におけるトレンドを見失っていたことが考えられます。

 しっかりした建造準備体制を整えないまま、「過去の経験」をベースに最新トレンドへ取り組んだ結果だった、というわけです。また、このような準備不足を招いた原因について、かつて「事業部制の見直しなど、全社的な事業改革の号令」があったなか、「正確な市場調査や技術調査を行わずに、高付加価値船へシフトを」というムードで持ち上がって来た話だったという、言い訳めいた反省論も出ています。

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コメント

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1件のコメント

  1. 目玉の船見たくねーけ。