新車に義務化「EDR」全然活用されてない? 事故の証拠データが“宝の持ち腐れ” 国交相も危惧

警察は使わない? 国交相「人材増やさないと」

 ほとんどの事故は、目撃者がいたとしても、それは発生直後に注意を向けた人たちです。EDRはドライブレコーダーと同じように事故直前からの挙動を記録しているので、事故分析が変わる――と言いたいところですが、実は義務化される前から、ほとんどの新車に標準装備されていました。

「少なくとも2018年の時点で99.8%の新車に搭載されている」(同省自動車局安全・環境基準課)

 もともとEDRは、正しくエアバッグが作動するかどうかなど、電子制御ユニット(ECU=Electronic Control Unit)で使用されるデータを記録する装置が前身でした。その後も衝突被害軽減ブレーキなど車両に搭載される安全装置の作動状況を記録するように進化。国際基準が定められたことをきっかけに今回、日本でも義務化されましたが、そもそも、クルマの諸機能が正しく作動していることを証明する記録装置としては使われていたのです。

 しかし、ユーザーに役立つ活用は遅れています。個別の事故で運転責任を問う刑事、民事事件でも活用は進んでいません。本当は個別の事故分析でも使えるはずですが、警察などの捜査でも、ほとんど認知されていません。これほどまでに搭載が普及しているにも関わらず、自動車局が目標とした安全基準の改正に役立つ事故分析の実績は、10数例に留まると言われています。

 事故分析研究機関である公益財団法人「交通事故総合分析センター」(ITARDA)にも問い合わせましたが、分析事例どころか活用方法ですら、依頼者の守秘義務を理由に説明は拒否されました。国民の安全(公益性)のために保安基準に盛り込まれた装置ですが、自動車ユーザーの負担が事故防止に役立っている説明はないままです。

 斉藤鉄夫国土交通相は2022年9月2日の会見で次のように話しました。

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斉藤国交相(中島みなみ撮影)。

「義務化は始まったばかりだが、EDRの存在はもっと国民、ユーザーに知らせていかなければいけないと思う。また、事故分析を実施する機関においてデータ分析できる人材を増やすことなどによって、さらにEDRデータが活用されるよう取り組んでいかなければならない」

 EDRは記録データを抜き取り、活用しなければただの箱に過ぎません。今は搭載のコストだけを自動車ユーザーが負担させられているような状態です。

【了】

【画像】期待値は高い? EDR「衝撃の認知度」

Writer: 中島みなみ(記者)

1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。

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コメント

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3件のコメント

  1. 嘘ばっかり。活用されてますよ。@自動車メーカーの中の人より

    • だとしたらドラレコと同じくらい一般人にも知れ渡っていなきゃおかしい

  2. 行政末端で使えるものになっていない。
    現場か、せめて警察署単位で使える端末と、数値を誰でも見やすく可視化出来るアプリがないと、ドラレコ見るような感覚で扱えるはずもない。
    動画だって数値データを可視化してるに過ぎないけど、その数値見せられて何がどうだって言われても万人が解るはずもない。
    警官や、検察、弁護士、判事がいくら賢くても、専門外のデータ解析なんか時間的に出来るわけがない。
    それが出来るのがメーカーや研究施設に限られると、還元が極端に少なくなって絵空事と同じことに。
    本来は導入時に一緒に揃えないといけない物のはずが、いつのまにかどっかに飛んでいく。

    ギガスクールで一人一台PCとか言ってもオンラインが出来ないなんて、PCとそろばんの違いが解らないような27兆事業やらかすような日の丸の典型。
    それに伴う団体だけがしっかり出来る。
    国民はそれにツッコミ出来ないレベルだから、しかたがないか