「戦闘機は危なくて飛ばせない」でもウクライナがF-16を欲しがるワケ 無人機&ミサイル飛び交う空

前々から目論んでいた“脱露入欧”

 ウクライナがF-16を欲しがるのは、ソ連式防空システムの弱点を積極的に突いて、西側のように制空権を確保する航空戦を展開したいからです。西側は旧ソ連式防空網を突破する敵空網制圧(SEAD)能力を構築しており、F-16の改修型がSEAD任務用「ワイルド・ウィーゼル」に用いられ、対レーダーミサイルも搭載できます。

 F-16自体はそれほど複雑な機体ではないので、ウクライナ空軍で飛ばせるようになるなら1~2週間、初期作戦能力を持つのに1~2か月、完全作戦能力を持つのに1年程度と見積もられています。

 ウクライナは、ロシア軍を押し戻し持続的な安全保障体制を固めるには、軍の体制を西側スタンダードに移行することが必須と見ています。もちろんF-16を導入するだけで移行はできませんが、少なくとも時間稼ぎにはなります。F-16導入を皮切りに、将来のNATO加盟など完全にロシアの影響下から脱却して西欧圏に入ろうという戦略的決断でもあります。F-16が真価を発揮する完全作戦能力獲得に1年かかると考えれば、短期決戦は無理でも長期持久戦を覚悟している証左でもあります。

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96K6パーンツィリ-S1。対空機関砲と短距離対空ミサイルを併用し、射程1~20kmの低高度域をカバーする。ドローン迎撃にも効果をあげている(画像:ロシア国防省)。

 ウクライナは約15年前からロシアと対立を深め、西側の演習にも参加するなど西側スタンダードに少しずつ移行努力を進めていました。プーチン大統領が「特別軍事作戦」の目的にウクライナの「非軍事化」を挙げているのは、このようなウクライナのNATO、西側への接近に危機感を募らせていたことも背景にあります。

 ウクライナ軍がF-16の運用を始めて西側スタンダードに移行していけば、冷戦時代に東西陣営が構築した航空戦システム対決が実現し、それを検証することは将来戦のためにも有意でしょう。いずれにしても制空権の概念が変わり、有人機が不要になったというのは、戦車不要論と同じくらい早計だといえます。

【了】

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Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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