「降りる人が先」って誰に教わったんだろう 鉄道ラッシュを支える「訓練された乗客」はどう作られてきたのか

鉄道での「迷惑行為」100年前で変化した?

 整列乗車は1947(昭和22)年、営団地下鉄渋谷駅の呼び掛けから始まったといわれます。おそらく駅公式の案内として実施したという意味で先駆例だったのでしょうが、ゼロから生まれたのではなく、戦時中の呼び掛けという下地があったから定着したのです。

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1963年当時、混雑する新宿駅ホームと電車(画像:新宿区)。

 しかし終戦直後の大混乱では、交通道徳などと生ぬるいことは言っていられません。1946(昭和21)年には、荒廃したマナーを回復させるため交通道徳協会が設立されるなどの動きもありましたが、以降も引き続き乗降マナーの徹底が呼び掛けられたということは、その後も完全には定着しなかったのでしょう。

 それどころか日本民営鉄道協会が毎年調査している「駅と電車内の迷惑行為ランキング」によれば、コロナ禍で朝ラッシュの混雑が劇的に緩和した2023年ですら「乗降時のマナー(扉付近で妨げる等)」が3位(31.3%・複数回答)にランクインしています。

 具体的には「扉付近から動かない(62%)」「降りる人を待たずに乗り込む(19%)」「乗車列に割り込む(6%)」「駆け込み乗車(5%)」「周りの人を押しのける(4%)」とあり、結局、鉄道事業者と利用者の悩みは100年前から変わっていないのです。

 それでも100年前、50年前から格段に増加した利用者と運転本数で行われるラッシュ輸送がまがりなりにも機能しているのは、長い歴史の中で事業者と利用者が訓練を積み重ね、やがてDNAとして受け継がれてきた結果です。

 混雑が緩和し、遅れが減ったとしても、通勤時間は憂鬱なものです。駅と車内という公共の空間を共有する人々が周囲に気を配るだけで、鉄道利用はもっと快適なものになるでしょう。

【了】

【気になる?ならない?】最新版「駅と電車内の迷惑行為ランキング」

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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