装甲車、警察はなぜ自衛隊のものを流用しないのか 独自開発を必要とした理由(写真15枚)

まるで軍用車両のF-7だったが…?

 F-7は、車体上部にはひとり用の放水銃塔を搭載し、車内レイアウトも前方が運転席、中央が乗員室、そして後部に機関室という戦車と同じ配置でした。またトラック用のコンポーネントを流用してはいたものの、それまでの警備車とは違い初めてモノコックボディを採用しており、これによりそれまでの警備車にはなかった車体底部の爆発物にも防御性を有し、なおかつ水深1mほどの渡渉能力も有していました。

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F-7型特型警備車。車体前端/後端のデザインやグランド・クリアランスなど、悪路走破性を重視し開発された。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。

 しかしF-7は、4WDではあったものの、やはり2軸車でトラックベースのため性能的には限界があり、防御力だけでなく機動力についても軍用装甲車には適いませんでした。しかも悪路走破性を重視して開発されたため車内容積が小さく、乗車定員14名を誇るF-3と比べて人員や物資の積載性で劣っていたのです。

 その後、過激な学生運動が終焉を迎えると、F-7のような一芸に秀でた警備装甲車は必要なくなり、車体が大柄なことで盾やバリケードとしても使え、なおかつ収容力が高く多用途性に優れたF-3の方が、街中では重宝する結果となったのです。

 こうしてF-7はF-3よりも優秀な警備用装甲車として開発されたにもかかわらず、生産数はF-3よりも少なく、なおかつ警視庁や大阪府警などに運用が限定されました。またF-7より先に運用が始まっていたF-3が、地方の県警で21世紀に入っても使われていた(現在は退役)のに対し、F-7は早々に姿を消しています。

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F-7型特型警備車の後方写真。渡渉を考慮して排気口が一番上に設けられている。足回りは4WD。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。
F-3型特型警備車。グランド・クリアランスが全くなく不整地走行を考慮していない。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。
F-3後方写真。当時はシャシー下やタイヤ周りの防御が要求された。足回りは2WD。1979年1月警視庁年頭視閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。

 こうして比べてみると、軍用は不整地走破性や防御力を重視するのに対して、警察用は使い勝手や積載性を重視しており、運用思想の違いから形状は正反対と、どちらかのものを流用できるとは一概に言えないことが分かるでしょう。また塗装に関しても、軍用は迷彩塗装に代表されるように、目立たないよう、背景に溶け込むようにする(偽装し易いのも同様)のに対して、警察用はあえて目立つように昔は銀、最近は青白が用いられています。

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米軍の中古装輪装甲車(MRAP:奥)が警察に譲渡されているが、使い勝手はよい噂がなく、予算が付けば専用設計の警備用装甲車を導入している(画像:マディソン市警察)。
イラクやアフガニスタンで多用された耐地雷装甲車MRAP。地雷に耐えられるようグランド・クリアランスが大きく、乗り降りはし難い(画像:アメリカ空軍)。
演習場の不整地を走るMRAP(画像:アメリカ陸軍)。

 ちなみにアメリカではイラクやアフガニスタンからの撤兵後、陸軍や海兵隊が使っていた中古の装輪装甲車(主にMRAP)が地方警察に供与されています。しかし、彼の地でも燃費が悪い、小回りが利かない、乗り降りし難い、大きさの割に車内が狭いといった欠点が指摘されており、実は予算に余裕のある大都市の警察では、警察向けに開発された警備専用の装甲車を使用しているそうです。

 銃犯罪が多いアメリカでも、やはり日本と同じ考えのようです。

【了】

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コメント

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4件のコメント

  1. F-3型は栃木県警で余生を送ってたそうだけど、引退ですか。
    警察博物館で保存してほしいな。
    あさま山荘事件のときに猟銃で撃たれた跡があばたのようになっていたそうで、銃というものの恐ろしさの教材にもなるでしょう。

    アメリカの事情にも触れられているけど、MRAP等の払い下げは警察力の過剰化との批判もあるらしい。

  2. 簡単に言えば、「警察官」と「自衛官」は違うのと同じ

  3. 「学生運動が華やかなりし頃」

    何が華やかなの?
    ただの暴動行為でしょ
    身勝手な話ですわ

  4. 配信を停止してください