1日で「東京メトロ全線9路線195km」完乗してみた結果―地下でふくらんだ期待と内省

「JR全線完乗」を達成した蜂谷あす美さんが、ルールを設けて1日での「東京メトロ全線完乗」へチャレンジ。朝から夜まで、その多くを地下区間で過ごした蜂谷さん、JRの場合とはまた違った「完乗感」だったようです。

余裕すら感じた「東京メトロ完乗」 しかし…

 筆者(蜂谷あす美:旅の文筆家)は5年以上前に「JR全線完乗」を達成したものの、「JR」の2文字を外す作業が進んでいません。そこで足掛かりとして、24時間券を使って「東京メトロ完乗」を目指してみました。

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9路線195.0km、180駅を持つ東京メトロ(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

「目指してみました」と書くと、いきなりノリで始めたように見えますが、決してそんなわけではありません。まず路線図を眺め行程案を作成。他社線は利用しない、各路線は端から端まで一気に乗るといったルールを定めます。さらに「東京時刻表」で本当に達成できるか検証していれば、JR全線完乗を目指してひたすら乗り続けていた頃の記憶がよみがえります。「東京メトロは9路線もあるけれど、営業キロ数はたった195.0kmしかない」と余裕すら感じました。

始まりは日比谷線中目黒 目新しい車両で幸先よく!

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地上にあるはじまりの駅、中目黒(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

 2020年6月の朝7時43分、日比谷線中目黒で、24時間券を改札に通し、ホームに向かえば、有料の座席指定制列車「THライナー」の運行でも使われている東武70090型電車が、普通の列車として入線していました。「乗らない手はない!」ということでそそくさ乗車し、7時48分、東京メトロ完乗の旅がスタートしました。ひじ掛け付きのシートがロングシートとして並んでいる様子は新鮮です。開業まもない虎ノ門ヒルズ駅も見られ、気持ちは高まります。

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「THライナー」として走るときは、席が2人がけで前を向く形になる東武70090型電車(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

 やがて地上に出て、隅田川を越え、8時35分北千住に到着。これにて1本目の日比谷線は完乗です。

 楽なものだと思いながら、地下の千代田線ホームに向かい、8時51分発北綾瀬行に乗車。荒川を渡り、9時ちょうどに北綾瀬到着。そのまま折り返し列車に乗り込みました。

 景色が見えない代わりに車内ディスプレイに目がいきがちで、化粧品会社のCMが提案する「大人のオレンジメイク」と、ニュースで流れていた「那須どうぶつ王国でスナネコの赤ちゃん一般公開」は、本稿執筆時点でも記憶に残っています。

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「東京メトロ24時間券」は大人600円で24時間、その全線が乗り放題(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

 列車は代々木公園を発車後、地上区間に戻ります。窓から差し込む光に誘われて、思わず景色を見やる自分がいました。地下に潜る前に見た車窓と、再び地上に出てから見える車窓の変わりようにはっとさせられました。

完乗へ「美しくない行程」は避けたい…

 2本目の千代田線は、9時51分、代々木上原にて完乗。次なる路線を目指すわけですが、JRで一筆書きの旅ばかりをしているせいか、「来た道を戻って、細かな乗り換えをして」という行程はあまり美しくないように感じられ、「歩く」を発動。目的地の渋谷までは3キロ弱。いい気分転換になりました。

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「歩く」を発動し、代々木上原から渋谷へ(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

 10時42分、渋谷駅の銀座線ホームから浅草行きに乗車。溜池山王にて「そういえばさっきの千代田線も溜池山王を通っている」と気づきましたが、ホームも車両もまったく異なるため、同じ駅という感覚が持てません。向かいのガラスにうつる自分の顔を眺めていると、内省の気分に陥りました。

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再び「歩く」で、浅草から押上へ。雨のなか……(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

 11時15分、浅草に到着し、銀座線を完乗。再度「歩く」で半蔵門線の押上を目指します。「副駅名が東京スカイツリー前だから」と吾妻橋からスカイツリーの方向を眺めるものの、降雨と霧の影響でほとんど見えませんでした。びしょびしょになり、何をしているのかわからなくなりながら、およそ1.8km歩いて押上駅に至ります。

東京メトロ唯一の「埼玉」へ

 11時56分発の半蔵門線で再び渋谷を目指します。車両は東急5000系電車。路線ごとに車両ラインナップが異なるのは、なかなかおもしろいです。

 正午を過ぎ、車内には買い物袋を提げた人も目立ちました。私が東京の地下を移動している間に、人はショッピングができるのです。

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東急田園都市線、東武スカイツリーライン(伊勢崎線)と相互直通運転をしている東京メトロ半蔵門線(2020年6月、蜂谷あす美撮影)。

 12時27分、2時間ほど前にいた渋谷に舞い戻り、半蔵門線完乗。そのまま副都心線乗り場に移動し、12時40分発の急行和光市行きでテンポよく5本目の副都心線を完乗しました。

 副都心線の終点、和光市は東京メトロのなかで唯一、埼玉県内に位置する駅です。埼玉を中心に展開するチェーン店「餃子の満洲」にて昼食としてラーメンと焼き餃子と水餃子をいただきました。ただ列車に乗っているだけなのに、己の腹時計は正直です。

言い訳をすると「東京メトロのせい」

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Writer: 蜂谷あす美(旅の文筆家)

1988年、福井県出身。慶應義塾大学商学部卒業。出版社勤務を経て現在に至る。2015年1月にJR全線完乗。鉄道と旅と牛乳を中心とした随筆、紀行文で活躍。神奈川県在住。

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