老舗バス会社がなぜ“ネット企業”目指す? 「旅行版レシピ投稿サイト」開発 脱・昭和の旅行

今できること「専門家の知恵を結集」

「あらすじ」さえ書けたなら、経路検索サービスで交通機関の詳細なダイヤを調べ、予約サイトで宿を取れば旅は完成します。将来は、AIが旅行者の趣味嗜好を分析し最適な旅を提案するのかもしれませんが、今の技術では「一人ひとりの心の琴線に触れる」旅程を提案するところまで届いていません。

 今できることは何か考えたとき、開発チームの答えは“レシピ投稿サイトの旅行版”でした。札幌観光バスの佐藤圭祐常務取締役によると、ごく一般の旅行者が実際に旅した内容と感想をシェアするのに加え、旅のプロや、アニメやアウトドアスポーツなど特定の分野に精通した人が「専門家お勧めコース」を投稿することを想定しています。その投稿をベースにオリジナルの旅程を作成できるサービスこそ、日本の観光産業変革の重要な1ピースになるのではないかといいます。さらに、投稿された数多くの旅程は、デジタルデータとして、隠れた人気スポットや新しい広域観光周遊ルートの発見にも活用できます。自社で着地型ツアーを企画し、「本業」である貸切バスの稼働向上につなげることもできるのです。

やっと脱するか?「昭和の旅行」

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「北海道の観光の価値を伝えよう」と北海道運輸局の水口観光部長(画像:札幌観光バス)。

 目指すのは、旅程作成の権限を、旅行会社から旅行者自身に取り戻す「旅程作成のエンパワーメント(権限移譲)」、いわば「旅行の民主化」です。

「たびポス」サービス開始を記念したセミナーでは、国土交通省北海道運輸局の水口 猛観光部長が講演しました。同氏は、北海道の観光が札幌周辺に一極集中している点を指摘し、「お手軽な体験の提供を、“観光”だと考えていないだろうか。わざわざ足を運んでもらえる価値を伝えよう」と、集まった北海道内の観光事業者に呼びかけました。同時に、「たびポス」に対しても、「旅行者の熱意が伝わる投稿を増やしてほしい」と激励しました。

 日本の観光産業の将来は、観光事業者らが、旅行者にとって本当に価値のある体験を提供できるかという点と、旅行者自身がそれらを組み合わせて上手に旅程を作成できる環境づくりにかかっていると言えそうです。

【了】

【「旅程」が自動で出る!】「たびポス」サービス画面

Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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