東急全車導入の4G防犯カメラ「IoTube」に迫る 多彩オプション 車両故障の防止も可能か

東急電鉄が全車両への防犯カメラ導入を完了。早期実現の立役者であるLED蛍光灯一体型防犯カメラ「IoTube」に迫ります。多彩なオプションが存在し、防犯に限らない車内環境の管理や車両故障防止なども、これで実現するかもしれません。

ホームドアに続く東急電鉄の安全100%

 2020年3月に完了した、東急電鉄全駅へのホームドア設置(世田谷線、こどもの国線を除く)。それに続いて2020年7月25日(土)、東急電鉄の全車両1247両に、車内防犯カメラの導入が完了しました(こどもの国線を除く)。

 東急電鉄は、安全への取り組みとして今後、2021年度中に全踏切へ「3D式障害物検知装置」を設置する予定だそうです。

従来形の防犯カメラだったら 東急電鉄はまだ100%になっていなかった

 さて、東急電鉄が早期に全車両への防犯カメラ導入を果たした背景には、「IoTube(アイ・オー・チューブ)」という4Gデータ通信対応のLED蛍光灯一体型防犯カメラがあります。

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「IoTube」が取り付けられた東急2020系電車(2020年7月27日、恵 知仁撮影)。

 東急電鉄はつり革の盗難(200本強)、消火器の使用など車内におけるイタズラ行為が発生していたことから、2015年秋頃には全車両への防犯カメラ設置を決定しました。

 しかしそこで、既存車両への防犯カメラ設置には、配線の新規敷設にともなう工事費用の増加、工事期間の長期化といった課題が存在。2019年7月1日時点での車内防犯カメラ設置率は33%で、もしそこで、従来の方法で防犯カメラを設置していたら、2019年7月から約2年半の時間が必要になる計算といいます。

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LED蛍光灯一体型防犯カメラ「IoTube」(2020年7月27日、恵 知仁撮影)。

 そこで、防犯カメラ未設置車に対してより早期に、より安価に設置できる方法を検討したところ採用され、約1年でそれを完了させたのが「IoTube」です。既存の蛍光灯と取り替えるだけで設置可能で、増設や設置箇所の変更も容易。1両(1編成)あたり2週間必要だった設置所要時間も約30分です。

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20m車に車両には4台、18m車両には3台の「IoTube」が設置される(2020年7月27日、恵 知仁撮影)。

 東急電鉄はこれを2019年5月31日から6月30日にかけて、大井町線の2編成に試験搭載し、「鉄道車両での使用に耐えうるか」「搭載器具へ影響を与えないか」「機能として問題がないか」を確認。これを経て、試験終了から約1年で全車両への導入に至りました。なおこの試験時の確認事項は以下の通りです。

・LED蛍光灯部:点灯、取り付け、ソケット、口金
・カメラユニット部:動作状態、外観
・撮影データ:データ取り込み、映像、画角
・通信環境:通信状況ログデータ

車両へSDカードを取りに行く手間がなくなる「IoTube」

 ほかの鉄道会社でもLED蛍光灯一体型防犯カメラの導入は始まっていますが、この「IoTube」は、ソフトバンクの4Gデータ通信で映像を確認できるのが大きな特徴です。

 従来形の車内防犯カメラで撮影映像を確認する際は、当該の車両まで赴き、記録媒体(SDカード)を抜き取り、事務所内などにある専用パソコンにて撮影画像を読み出す、といった手順が必要でした。

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東急2020系に設置されている既存の防犯カメラ(2020年7月27日、恵 知仁撮影)。

 それが「IoTube」だと、事務所などにあるパソコンから各車両の「IoTube」に記録されている映像を、ソフトバンクの4Gデータ通信でダウンロード可能。特段の通信環境整備は不要なほか、ほぼリアルタイムで、車内の映像を見ることもできるとのこと。「ほぼ」なのは、セキュリティを考え映像を難読化しているためで、1分ぐらいの“時差”は出るそうです。

 またこの機能は、他社線に直通する東急電鉄にとっては別の利点もあるとのこと。たとえば東武の車両基地にいる東急電鉄の車両から防犯カメラ映像をとりたい場合、セキュリティの点から東急の担当者がその車両基地へ行く必要がありますが、「IoTube」であれば不要です。

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「IoTube」で録画した映像(2020年7月27日、恵 知仁撮影)。

 東急電鉄によると、この「4Gによる遠隔確認」の活用で、これまで主に通話で行われていた司令所と列車のやりとりに、状況把握のための「目」ができることになり、より早く、確実な状況把握により、的確な対応をよりスピーディに行うことが可能といいます。

ただ録画するだけじゃない防犯カメラ 何ができるのか 東急電鉄 職場から出た声

 東急電鉄の職場関係者からは以下の声があがっており、「的確な判断をよりスピーディに行えることで支障時間の短縮に寄与できる」と考えているそうです。

・ほぼリアルタイムで車内状況が確認できることで、判断材料が増え、より的確な指示が行える。
・有事の際の避難状況の確認、各種手配を行う際のツールとして活用することで、支障時間の短縮に有効。
・ダイヤ乱れ時の混雑状態が確認できることで、発車待ち等の運行整理時に役立つ。
・従来の乗務員からの通報に頼っていた部分から、自ら情報を取りにいくことも可能になる。
・長編成車両における状況確認時の時間短縮に有効。
・一部予備灯にも設置することで停電時にも活用できる。

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Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道を中心に、飛行機や船といった「乗りもの」全般やその旅について、取材や記事制作、写真撮影、書籍執筆などを手がける。日本の鉄道はJR線、私鉄線ともすべて乗車済み(完乗)。2級小型船舶免許所持。鉄道ライター/乗りものライター。

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