実は難しい展望車 AGCのガラスが寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の力になったワケ 進化する車窓〈PR〉

JR西日本が運行する寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の展望車は、優れた眺望と開放感が魅力。実現には課題がありましたが、「素材の力」がそれを解決していました。いまも進化を続けている「ガラス」。鉄道や旅での過ごし方が今後、変わっていきそうです。

「星空」も眺められる展望車

 かつて大阪~札幌間を走っていた、JR西日本の寝台特急「トワイライトエクスプレス」。窓が広いサロンカーから眺める日本海の夕日など、「車窓」も大きな魅力でした。

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夕暮れの山陰本線を行くJR西日本が運行する寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」。先頭車両は展望車で、窓が屋根まで大きく回り込む( (C) Takashi Karaki)。

 この旧「トワイライトエクスプレス」の「伝統」と「誇り」を受け継ぎ、「新たなJR西日本の顔」となるべく2017年6月17日にデビューした寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(トワイライトエクスプレスみずかぜ。以下『瑞風』)」。「車窓」という魅力も受け継がれ、さらに進化しています。

 象徴的なのが「展望車」でしょう。窓が屋根まで大きく回り込んでおり、これが列車の中なのかと思うほどの開放感です。JR西日本は「瑞風」を登場させるにあたり、「車窓」には徹底的にこだわったといいます。

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「瑞風」の展望車。大きな窓に、四季折々の景色が流れていく(画像:JR西日本)。

「瑞風」の設計に携わったJR西日本 瑞風推進事業部 課長代理の高田尚紀さん、車両部車両設計室の若杉景祐さんによると、こうした場所で足元はあまり見ないため、「天を仰ぎながら」というコンセプトで設計したとのこと。照明も、足元は明るくして安全を確保しつつ、天井は暗めにすることにより、夜間走行中でも外が見えやすいよう工夫。星空が眺められることもあるそうです。

窓を大きくすると、車内に影響が… どう克服したのか?

 しかし大きな、特に天井へ回り込むような窓を鉄道車両に設けることには、難しさもあります。そのひとつが快適性との両立。窓が大きいと、車内が気温や日射しなどの影響を受けやすいのです。「窓が大きくて見晴らしは良いけど、暑くて展望車にいられない」となったら本末転倒になってしまいます。

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旧「トワイライトエクスプレス」のサロンカー。大きな窓にはカーテンが設けられている(2015年5月、恵 知仁撮影)。

「瑞風」展望車の構造を検討する際、この「暑さ」をどうするか、さまざまな議論があったそうです。カーテンを設置すれば課題は解決しますが、それにより開放感が損なわれてしまいます。くわえて「瑞風」展望車は、客室の床が見晴らしの良い高い位置にあり、天井が近いことから、カーテンを設置すると圧迫感が出てしまうという懸念もありました。

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「瑞風」の展望車は、客室(左奥)が高い場所に設けられている(画像:JR西日本)。

 これを解決したのが、世界的な素材メーカーであるAGCの「Low-E複層ガラス」でした。「瑞風」設計時、そのガラスの遮熱(簡単にいうと「遮熱」は日射熱をさえぎること)性能を示すデータから、「窓にこれを使えば」ということで採用が決定。こうして、カーテン無しの高い開放感と優れた眺望、快適性を誇る「瑞風」のスペシャルな展望車が誕生したそうです。

「瑞風」はガラスに「金属の膜」をコーティング

「Low-E」は「Low Emissivity」の略で、意味は「低放射」。表面に銀などの金属膜をコーティングすることにより、可視光線をなるべく通しつつ、熱(遠赤外線)を反射させて通さないもので、明るいけれど暑さは軽減する魔法のガラスです。

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夜空に星が見えることもあるという「瑞風」の展望車(画像:JR西日本)。

 AGCオートモーテイブカンパニー グループリーダーの大東英幸さんによると、「瑞風」の窓に採用されている「Low-E複層ガラス」は、室内側から「Low-Eコーティングをした強化ガラス」「中空層」「紫外線・赤外線カット効果のある特殊フィルムを挟んだ合わせガラス」という構造とのこと。

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「瑞風」に使用されているAGC「Low-E複層ガラス」のイメージ。奥側のガラスの内側(中空層へ面する側)に「Low-E」のコーティングがされている(画像:AGC)。

通勤電車の窓にも、日よけが無いものがあるけれど…実は大きな違いが

 カーテンなどの日よけが無い窓というと、通勤電車にもそうした車両がありますが、それらは日射しの問題について、色がやや濃い「熱線吸収ガラス」で対応しています。ただこれは「吸収」であるため、車内へ透過する光や熱を減らすことはできるものの、「ガラスが熱を持つ」という特性が存在。熱(遠赤外線)を反射する「Low-E複層ガラス」のほうが遮熱性は上で、色も透明に近くできるそうです。

「ガラス越しの眺望」は、列車旅の大きな楽しみ(さらに「瑞風」には、風を感じられる屋外の展望デッキもありますが)。そのガラスには日射しによる暑さを防ぐために、さまざまな工夫がされていることが分かりました。特に窓ガラスは「気にならないこと」が求められる性質上、意識することは少ないかもしれません。しかしそれゆえに「これはかなりの『縁の下の力持ち』だぞ」という印象を、取材を通じて受けました。

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日本海を眺めながら山陰本線を行く「瑞風」(画像:JR西日本)。

 ちなみに、「瑞風」で使われているAGCの「Low-E複層ガラス」は、窓外側の合わせガラスに、車体色へマッチする緑がかったものを使用。これにより、車内で感じるまぶしさも抑えられています。

「ガラス」が鉄道を変える? 工場に「鉄道の車内」があるAGC

 ガラスによって今後、鉄道車両はさらに進化していきそうです。AGCは関西工場尼崎事業所(兵庫県尼崎市)に、列車内を想定した新技術のデモルームを設置。そこで今回、AGCが描く「未来の鉄道車内」へ、ひとあし早く触れることができました。

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AGC尼崎事業所にある、列車内を想定した新技術のデモルーム(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 乗降用ドアの車内上部にあるディスプレイは現在、複数画面で構成されるものが多く見られますが、AGCではそれが1面ですむ軽量大型のワイドスクリーンタイプを開発中です。

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路線図などの横長画像も切れ目無く表示できる、軽量大型ワイドスクリーンタイプの「インフォベール」(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 AGCのガラスサイネージ製品「infoverre®(インフォベール®)」。特殊な樹脂を用い、ガラスに液晶ディスプレイなどを直接貼り付けることから、光の反射が少なく画面が見やすいことが特徴といいます。

 この「インフォベール」の技術を用いると、横長のスクリーンを軽量かつ薄く作ることができ、ドア上の限られたスペースにも、大きく張り出したりすることなく設置できるそうです。複数画面タイプより路線図などの案内表示が分かりやすいのはもちろんのこと、表示がクッキリしており、見やすかったのが印象的でした。

車内の仕切り壁に映像を表示 わずか1cm少々の空間に

 一部がディスプレイになったかのようなガラスもありました。

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車内の仕切り壁がディスプレイに。「インフォベール」のパーティションシリーズ(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 空気層をガラスで挟み込む形の複層ガラス、そのわずか12mmから16mmしかない内側の空気層へ、超薄型の両面ディスプレイを組み込んだ「インフォベール パーティションシリーズ」です。

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写真のものは、わずか14mmの空間に、21.5インチの液晶ディスプレイが両面で入っている(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 実際に見たところ、ガラスにディスプレイが浮かんでいるような印象。薄くて、ただのパーティションがあるのと変わらないのに映像が表示されているのが不思議な感じです。こちらは2019年7月の製造販売が予定されています。

これはSFの世界! 列車の窓にデータが!

 列車に乗って車窓を眺めていると、それに合わせて窓ガラスに車窓や沿線、次の駅、列車の情報などが表示される――。そんな「インフォベール」製品も、AGCは世界に先駆けて開発しているそうです。

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窓にさまざまな情報を表示できる列車用窓透明タイプの「インフォベール」。見えている風景は、窓の向こうに置かれた印刷物(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 複層ガラスの内側に有機ELのディスプレイを貼り付けたもので、電源を入れると、車窓を背景に映像が表示される仕組みです。

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表示を消した状態。ムラがあるように見えるのは、印刷物の設置状況によるもの(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 今回、これには特に興奮しました。もうSFの世界です。よく見ると、窓に貼り付けられたドット状のディスプレイが分かるものの、特に気にならないレベル。日射しが入ってくるような状況だと表示が見えづらくなりそうですが、AGCが持つガラスの透過率を変える技術を使い、外の明るさに応じて表示部分の明るさを調整することで、くっきり鮮やかな映像を表示できるといいます。

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列車用窓バータイプの「インフォベール」。下側の風景は印刷物(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 合わせて、窓の上部に大型の液晶ディスプレイを組み込んだ、車窓と情報を分けて表示するタイプも開発されています。

「ガラス」が人の動きも変える? ガラスからスマホへプッシュ通知

 この「列車用窓タイプ」について、AGC インフォベール商品開発センターの福井 毅センター長によると、将来的にタッチパネルで、その「窓」を起点に乗客が沿線の情報を入手したり、自分のスマートフォンをかざして情報を共有したり、という構想もあるそうです。

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45型フルハイビジョンのタッチパネルを搭載した「インフォベール」。スマホのように操作できる(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 そしてさらに、各自のスマートフォンと通信し、「列車の窓」や街中に設置されているガラスサイネージ「インフォベール」から、「あなたの好きな●●の飲食店が近くにありますよ」「いまなら○○の施設が空いていますよ」といった利用者の好みに合わせた情報を、そのスマートフォンへプッシュ通知するなど、「ガラスで人の動きを生み出していく」ことも考えているといいます。

「これまでのサイネージは『発信』だけでしたが、これからは『情報交換』の場にしていきたいです」(AGC インフォベール商品開発センター 福井 毅さん)

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大阪駅を発車する寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」(画像:JR西日本)。

 ガラスに映像を表示する技術「インフォベール」。極端に言えば、ガラスがあるところは映像の表示、情報交換ができる最適な場所になる可能性があるわけです。「ガラス」は、寝台列車「瑞風」の展望車を生む力のひとつになったのみならず、旅や日常生活の新しい形を生み出し、それを支えるインフラになっていくのかもしれません。

【了】

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Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道ライター、イラストレーター。「鉄道」や「旅」に関する執筆活動や絵本の制作を行っているほか、鉄道車両のデザインにも携わる。子供の頃からの旅鉄&撮り鉄で、日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済み。完乗駅はJRが稚内で、私鉄が間藤。メインは「鉄道」だが、基本的に「乗りもの」好き。

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