世界初のEVタンカー2番船「あかり」竣工 もう船の仕事は特殊じゃない! 物流を守るために必要な“革命”〈PR〉
世界初のピュア電動タンカーの2番船「あかり」が完成しました。内燃機関に頼らない完全ゼロエミッションの船は、特殊な環境のイメージがある船での“働き方”をも変えるインパクトを持っています。
世界初のEVタンカー2隻目が揃う! 何が変わる?
世界初の“ピュア電動タンカー”として旭タンカー(東京都千代田区)が発注した「あさひ」。その完成から約1年が経ち、ついに2番船の「あかり」が完成しました。社会的要請であるカーボンニュートラルを海運業界として強力に推進する、その象徴的な船となるだけでなく、「海の働き方改革」をもたらす存在となりそうです。
「あかり」(497総トン)は2023年3月28日、井村造船(徳島県小松島市)で竣工し、旭タンカーへ引き渡されました。運航の開始は4月を予定しており、2022年4月に就航した1番船「あさひ」と共に、川崎港を拠点として東京湾内で外航船に燃料輸送・燃料補給を行う旭タンカーのバンカリング船として運航されます。
川崎重工業が開発した内航船用大容量バッテリー推進システムを採用。動力用のエンジンは積んでいません。航行や離着桟、荷役、停泊中の船内電源といった船の運用に必要な電力を全てバッテリーで賄うことができ、CO2(二酸化炭素)を排出しない完全ゼロエミッション運用が可能です。
「あさひ」に続き「あかり」が就航したことにより、東京湾内でバンカリングを担うEVタンカーは2隻体制となりました。これにより1隻が検査や修繕でドック入りしても、ゼロエミッション運航というアドバンテージを持つサービスを継続して提供できます。また、EVタンカーを複数隻使うことによって、バッテリーのみで運航する船舶の運用ノウハウを蓄積していけば、さらなる普及へ役立てることも可能になるでしょう。
「これが働くフネ!?」衝撃の船内は2番船でさらに“使いやすく”
1番船「あさひ」は電動であることのみならず、船内のモダンなデザインも大きな話題になりましたが、今回の「あかり」は、そこからかなり変更を加えているのだとか。「あさひ」の実運航で蓄積された知見をフィードバックした改良型で、現場のニーズも盛り込んでより働きやすく、より運用しやすくなっているといいます。
まず外観上の違いとして、前方の視界を改善するためブリッジの高さを上げています。これにより業務で必要なものを収納する倉庫が追加設置されました。キャビンも、吹き抜けになっていた階段の配置を変更し、技師や予備の人員といった来訪者のための休憩スペースを設えたそう。
乗組員が船の操作を行うブリッジは、離接岸時に左右や後方の確認をすぐに行えるよう、広いスペースがとられています。前方にはレーダーや無線機、操船用のジョイスティックを集約して配置したブリッジコンソールと、船内の各種機器の情報や船外のカメラ映像を一元的に確認できるモニターが配置されています。また、推進システムには電気船の特性を活かし、モーター駆動かつ全方位に旋回する2軸プロペラを採用しています。これらの仕組みにより、頻繁に離接舷を繰り返すバンカリング業務を支えます。
また、積み荷となる舶用燃料の荷役で使うバルブ・ポンプの操作はタブレットを用いて実施できるようになっており、将来的には荷役制御室から遠隔で操作する全自動荷役も視野に入れていると見られます。これは1番船「あさひ」も同じです。
「エンジンがない」それがもたらす“働き方改革”
一般的な船は、常にディーゼルエンジン(主機関)が回り、そこから運航や荷役に使う動力を全て賄っています。このため船内は常にエンジンの騒音・振動とともにあるほか、機関室内には所狭しと機器が並び、熱気のなかで機関士がメンテナンスにあたっています。
そのエンジンがない「あさひ」と「あかり」は、船の環境が一変しています。騒音、振動、オイル臭が低減され、船内の快適性・居住性が格段に向上しただけでなく、仕事の時間概念すら、大きく変えたのです。
電気で動く船のメリットは、ディーゼル船で始業前に行っていたエンジンの暖機運転といった朝のスタンバイ作業がなくなったことです。これまで出航の2時間前には乗船して、まずは船を動けるようにする準備が必要でしたが、「あさひ」と「あかり」はボタン一つで船が“起動”します。東京湾内のバンカリング業務が行われるのは、朝から夕方にかけてで、給電のため必ず川崎港に戻ってくるということもあり、より“サラリーマン的な働き方”ができるようになったといいます。
また、「あかり」には係船索ウインチの遠隔操作装置を搭載しています。実はこの装置が、「あさひ」と比べて、船橋の高さに次ぐ、一番大きな変更点だそうです。
「あさひ」よりも作業をラクに 世界初の船からのフィードバック
「本船クラスの小型船型としては、乗船している乗組員の数も大型船と比べて少ないです。しかしながら設備や作業内容はほぼ同じなので、一人の役割が多いのが現状です」。旭タンカーの船舶環境安全部担当である岸 和宏執行役員はこう話します。
製油所や大型船への給油のために着離桟(着離舷)する際には、船首、船尾から係船索を桟橋や給油する船へ渡して、巻いたり緩めたりを係船索ウインチで行います。係船索を巻いているドラムは複数あり、使用する係船索ごとに、そのドラム前へ移動して、クラッチ入れたり外したり、ブレーキを締めたり緩めたりする必要があったといいます。
「1番船『あさひ』での実作業を見て、『基本を守りなが、何か少しでも作業を軽減できないか』との悩みから、『あさひ』の乗組員と『こんな装置があったら便利かな? 楽になるかな?』と話しながらフィードバックした部分です」
「これは『あさひ』の乗組員が世界初の船で、初めての設備を試行錯誤しながら使っていただいたことによるものです。『あさひ』の乗組員に感謝いたします。また『あかり』の乗組員からも意見を聞きながら仕様変更につなげており、さらに良い船に仕上がったと思います」(岸執行役員)
課題山積の海運業界 EV船が全てを解決する?
このように様々な変革をもたらすEVタンカーですが、世界初となるプロジェクトの技術開発は通常の造船と違い、造船所や重工メーカー、舶用機器メーカーとゼロベースから開発したものでした。そのため船価は従来船型と比べて1.2倍から1.5倍ほど高くなっています。旭タンカーはプロジェクトを形にするため、バンカリング船としては初の自社発注に踏み切り「あさひ」「あかり」を完成させました。同社がそれだけの覚悟を持って、EV船の導入を進めている背景には、業界全体の課題があるのです。
内航海運は、国内貨物の44%、石油など産業基礎物資の約8割を運ぶ重要なインフラです。ただ、業界全体では50歳以上の船員が50%以上と高齢化が進行。法定耐用年数(14年)を超えた船舶の割合も7割と船の高齢化も深刻な状況です。そうしたなかで、政府が掲げた2050年カーボンニュートラルを実現するため、GHG(温室効果ガス)のさらなる削減が求められています。
このため、若手船員が働ける魅力的な職場環境を整えつつ、環境に配慮した先進的な船舶を導入していく必要があるわけです。EV船の導入はいわば、海の働き方をアップデートすること。これにより複合的な課題を一挙に解決する狙いがあります。
今は旭タンカーだけですが、旅客・貨物関係なく他社へも、こうした画期的なデザインのEV船が広がっていけば、船で働くことがより魅力的に感じられるようになるでしょう。
また、「あかり」が搭載しているバッテリーは、船内の電力だけでなく陸上に電力を供給する機能も備えています。これにより自然災害などで陸上送電設備がダウンし、道路や送電インフラが寸断されても、陸上側で受配電する仕組みと連動できればEVタンカーからの電力供給が可能となります。船自体を災害時の非常用電源として、BCP(事業継続計画)対策や地域LCP(生活継続計画)につなげる新たな役割を担うことも期待されています。
ちなみに、旭タンカーの新造船は5月にも竣工を控えています。こちらはハイブリッド型電気推進貨物船(499総トン)。阪神エリアのバイオマス輸送への投入が予定されています。
「EVタンカーなんてビジネスになるわけがないと、社内外で言われ続けてきました」。旭タンカーの春山茂一社長はこう振り返り、次のように続けました。
「それでもこれからの時代は環境保全と企業活動を両立しなければ、企業の存続はありえないという信念の元、本プロジェクトを続けたところ、ありがたいことにこの理念に共感してくださるお客様も現れ、ビジネスとして続けられる見通しが立ちつつあります。EVタンカーを運航し続ける当社を見た他社が追随することで、海運業界全体にEV船を普及させることが当社の最終目的です」
旭タンカーが先頭に立って、関東と関西両方でEV船の整備が進めていくことで、海運、造船、港湾という海事業界全体にイノベーションを波及させていくことが期待されています。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。