江ノ電にド並行「R134BUS」が大盛況のワケ 道路を観光コンテンツに変える「モビリティツーリズム」とは〈PR〉
湘南エリアで鉄道を運行する江ノ島電鉄が、2022年2月に鎌倉と江の島を結ぶバス「R134BUS」の実証実験を実施しました。電車に並行する国道134号を走行するこのバス、ただの移動だけでなく、さまざまな「仕掛け」がありました。
江ノ電の真横にバスを走らせた
江ノ島電鉄が2022年2月23日~28日の6日間、鎌倉~江の島間の国道134号を走るシャトルバス「R134BUS」の実証実験を実施しました。
「R134BUS」は観光バス車両を使用。鶴岡八幡宮(鎌倉八幡宮)近辺から江の島島内のバスロータリーへ直行し、往路(西行き)では途中、七里ヶ浜バス停で10分の停車時間を設けます。鎌倉発が16時30分、江の島発が19時で、夕暮れ~日没の湘南の海岸線を車窓に眺めることができます。
これは江ノ電が進める「湘南MaaSプロジェクト」の一環で実施。2021年3月に立ち上げられたこのプロジェクトでは、MaaSアプリ「EMot」を用いて1日乗車券「のりおりくん」の購入・利用をデジタル化したほか、シェアサイクルサービス「SHONAN PEDAL」を開始するなど、地域活性化に向けた取り組みが続けられています。
そして今回、江ノ電が仕掛けたのが「R134BUS」です。6日間でのべ174人が参加し、SNSでも道中を楽しむ声がリアルタイムに投稿されるなど、大盛況。既存の電車がすぐ横を走る中、渋滞の名所でもある湘南の道路にあえて走らせたバスが「ウケた」のには、どんな背景があったのでしょうか。
公共交通で来る楽しさを知ってもらいたい
――「R134BUS」のルートは江ノ電の電車とほぼ完全に並行していますが、そこにバスを走らせるという取り組みに至った経緯を教えてください。
私たちが進めている「湘南MaaSプロジェクト」は、江の島や鎌倉をはじめとする湘南エリア全体を観光コンテンツとして、それぞれの地域を連携させていく目的があります。その一環として、国道134号自体も観光コンテンツにしたい、という思いがありました。今までなっていなかったのか、と聞かれると、実はなっていなかったんですね。それはなぜかというと、やはり交通渋滞が深刻だというのが大きいです。国道134号をずっと走る路線バスもかつて走っていましたが、どうしてもダイヤ通りの運行ができず、利用客が伸び悩んでしまったのです。
しかし本当は、国道134号はずっと海岸線沿いを走っていて、その風景を見ているだけでも楽しい。みんなマイカーでそこを通過していきますが、ゆったりと座席に座って国道沿いの湘南の海を眺める、という公共交通ならではの楽しみ方もあっていいじゃないか、と思うんですね。
そしてもうひとつ、鎌倉~江の島の回遊性を高めたいという思いがあります。江ノ電と今回の「R134BUS」、ルートを見ると完全に並行してはいるのですが、実は江ノ電を利用されるお客様は、鎌倉から江の島に向かう方ばかりではなく、鎌倉周辺を周遊するお客様も多くて、むしろ鎌倉~長谷間に集中しているんです。江の島に行きたいお客様が、その混雑の影響で乗り切れなかった、移動をゆっくり楽しめない、ということも起きている。それならば、江の島へ直行するアクセス交通を別に設定すれば、車内の混雑も緩和でき、鎌倉を起点に行って見ようというお客様も増えるのではないか、と考えています。
最終的にはこの湘南エリアへ公共交通で来て、そこから鎌倉や江の島、そして国道134号沿いのエリアへそれぞれ回遊していくという人の流れが生まれるといいな、というのが「湘南MaaSプロジェクト」の目標でもあります。
――「R134BUS」はただ鎌倉~江の島間を移動するだけではなく、車内で楽しんでもらうというコンセプトでもあり、湘南にちなんだ音楽を流すという試みをされています。この試み、どのような目的や経緯で生まれたものでしょうか。アイデアのコンセプトやきっかけをお聞かせください。
私たちが進めている「湘南MaaSプロジェクト」では、利便性と楽しさと回遊力の3つを核に、様々な取り組みを行っています。「R134BUS」は利便性と回遊力については先ほどお話ししたとおりで、「楽しさ」の面でどうやって付加価値を与えるか、と考えた時に、五感全体で楽しめたらいいですよね。視覚については言うまでもありませんが、その他にバスの車内でできることとして、まずは聴覚で楽しめるコンテンツとして、湘南をイメージさせる歌手やアニメなどの曲をはじめ、湘南にちなんだ音楽を流すというアイデアになりました。
そういった面で、社会情勢もあって今回は実現できなかったんですが、将来的には車内でお酒の提供もできればいいですね。「お酒を飲みながら湘南の海岸線を楽しむ」というのは、マイカーでは味わえない体験です。
ちなみに、アンケートの結果、お客様の年代は10代から70代以上まで幅広く、しかも満遍なくいらっしゃることが分かりました。湘南エリアは観光コンテンツとして、それだけ普遍的な人気があるということですが、今思えば車内の音楽ももう少し年代的に幅広くすればよかったかもしれません(笑)。
「遅れ」を逆手にとって、満足度に貢献
――「R134BUS」は電車と比べ、座ってゆっくり景色を楽しめますが、定時性は確保されていません。実際、6日間の中で、所定の運行スケジュール通りにはなったのでしょうか。
往路は途中停車も含めて50分、復路は40分と、ある程度余裕を持った所要時間を見込んでいました。ただやはり国道134号ということで、土日は最大20分の遅れが発生しました。
ただ、アンケートでは、バスの到着が遅れたことに関してのご意見は、特に頂戴しておりません。この「R134BUS」のコンセプトである「バスの車内から湘南の風景を楽しもう、ついでに車内でも楽しもう」というのをお客様もある程度理解してご利用いただけたのかなと。本来公共交通としてはネガティブな事象であるはずの「遅れ」を、「のんびり」というポジティブな方向に持っていけたのであれば成功でしょうね。
「気軽に使いやすい」ことが一番大事
――「R134BUS」の座席予約の手段として、ヴァル研究所の開発した高速バス座席予約システム「sokko-bus(ソッコーバス)」が使用されています。このシステム、どういったメリットを感じて採用されたのでしょうか?
まず、お客様の目線では、名前とメールアドレスだけで予約ができるという点です。届いたメールから予約を確定させる、というプロセスはあるものの、会員登録や何回もページ遷移を経る、といった煩わしさがありません。それは、比較的上の年代の方にも多く利用いただいていることにも表れているかなと思います。
分かりやすさの面では、バスの便ごとに空き座席数が一目でわかるようになっており、キャンセルが出るとその空きが反映されます。キャンセル自体も作業がシンプルというのもあって、「予定が変わったけど、予約したまま結局乗らなかった」というケースが予想以上に少なかったです。
一方で、運営コストを抑えられるのもまたメリットでした。江ノ電バスでは海外の旅行客向けをはじめとする観光バスを運行していたのですが、その受付は主に現地のインフォメーションセンターで行うもので、人手も必要となっていました。それに対し今回は「sokko-bus」に一本化したことで、予約についてはシステム内でほぼ完結できるようになりました。
もう一つ、様々な取り組みを進めていくなかで、取り組みの実現に至るまでスピード感が大切になってきますが、それに「sokko-bus」は答えてくれました。今回、12月中旬に最初に打合せをして、予約受付開始が2月9日。準備期間を含めるともう少し早くて、1か月半もかかっていないんです。予約システムを最初から構築することなく、既存のシステムに今回の運行計画を登録するだけ、というシンプルさにより、このスピード感が実現できたのでしょう。
――今回は2月に実証実験が行われましたが、やはり湘南のメインシーズンは夏だと思います。今度は夏にバスを走らせる、というのはお考えでしょうか。
ぜひやりたいな、と考えています。アンケートでも利用された方の約94%が今後「ぜひ利用したい」「利用したい」と回答していて、満足いただけたのかなと手ごたえを感じています。今後、さらにどのような付加価値をこの「R134BUS」に与えていけるか、検討していきたいと思います。
<sokko-busお問い合わせ先>
sokko-bus-info@val.co.jp
<ヴァル研究所HP>
https://www.val.co.jp/