軍事のプロから見たアニメ『よみがえる空』のリアルとは? BD-BOX発売でイベントも〈PR〉
2006年放映のアニメが、12年の時を経てブルーレイBOX化します。航空自衛隊の「航空救難団」に属するある部隊の活躍を描く『よみがえる空』の魅力やリアリティを、軍事評論家の視点から解説します。
ハッピーエンドばかりではない、レスキューのリアルを描く
今年2018年は、航空自衛隊の「航空救難団」が創設されて60年目にあたります。
航空救難団は、その名のとおり救難を任務とする部隊です。本来は自衛隊機が事故などで墜落したときに脱出した乗員を救助することが役目ですが、それとともに、災害派遣として民間人の救助や患者輸送にもあたります。
航空自衛隊の戦闘機部隊はこれまで実際に相手の航空機と戦闘を交えたことはありません。それは戦闘機部隊が自分たちの任務が“本番”にならないよう、日々訓練を重ね、抑止力として働いてきたことの証しでもあります。しかし航空救難団は創設以来、事故機乗員の救助や災害派遣で常に“本番”の任務に臨んできた部隊なのです。
アニメ『よみがえる空』は、そうした航空救難団とその隊員たちを描いた作品です。2006(平成18)年1月から3月にかけて、12話がTV放映され、さらに2006年10月にはOVAとして第13話が発売されました。『よみがえる空』の主人公は小松基地(石川県小松市)の航空救難隊に配属された若いパイロット、内田3尉。F-15J戦闘機のパイロットとなることを望んで訓練を受けてきましたが、志はならず、UH-60J救難ヘリコプターのパイロットに任ぜられてしまったのです。
自分が目指していた空とは違う空を飛ばなくてはならなくなった内田3尉は、小松救難隊での厳しい訓練と仲間とのチームワークを通じて、救難の任務の重さと大切さを次第につかんでいく……という物語です。
しかし『よみがえる空』では、それぞれのエピソードがハッピーエンドで終わるわけではありません。救難員がたどりついたときにはすでに遭難者は死亡していたり、悪天候に阻まれて、救出寸前で断念しなければならなかったりといった状況が描かれます。隊員たちの苦闘が必ず成功によって報われるとは限りません。それは実際の救難活動が時にそういうものであるからです。『よみがえる空』は航空救難団が直面する過酷な状況を正面から描いているのです。
その厳しい状況の中で航空救難団は任務を遂行しなくてはなりません。たとえば冬山登山で遭難者が出て、空から救助に向かう場合、まず地方自治体の消防や警察、防災機関のヘリコプターが出動することになります。しかし遭難場所の高度が高くて、あるいは天候が悪くて、地方自治体のヘリコプターの性能では安全に救助ができないこともあります。そのようなときには、優れた性能と装備を持つ航空自衛隊の航空救難団に救助のための災害出動が要請されます。ほかの機関では救助活動が不可能なときにも、航空救難団は飛ぶのです。
航空救難団が「救難の最後の砦」といわれるのはそのためなのです。
『よみがえる空』の第10・11・12話は、まさにその話です。航空救難団のUH-60Jが災害派遣要請を受けて、冬山登山で遭難した登山パーティーの救助に向かうのですが、現場の天候は吹雪、遭難者を発見して、救難員がホイスト(ワイヤーで救難員や遭難者を吊り下げ/吊り上げるウィンチ)で地上に下りようとするのですが、強風のために寸前で断念して、基地に引き返してしまうのです。
悪天候のなかでも出動する勇気と、安全が確保できないと判断したら引き返すという辛い勇気。そして天候の回復を待つ葛藤。救難隊の隊員たちの現実がリアルに描かれています。
ストーリーや航空救難の実際がリアルに描かれているだけでなく、もちろん登場する航空救難団の航空機もリアルに描かれています。
内田3尉がコパイロットを務めるUH-60J救難ヘリコプターも、UH-60Jと組んで捜索にあたるU-125A救難捜索機も、精密なCGモデルを作成して、リアルに飛びます。1話約25分なので、航空機の出てくるカットはしつこいまでの描写とはいきませんが、UH-60Jのローターの始動や、離陸の時に機体が浮き始めて脚のオレオ(降着装置)が伸びるところなど、飛びもの好きの心をつかむカットがいくつもあります。
ちなみに、あるエピソードで「え、UH-60Jにこんなことができるの?」という場面がありますが、大丈夫、制作側はちゃんとUH-60Jの吊り下げ可能重量と、吊り下げ対象物の一般的な重量を調べて作っていますから、できるのです。リアルなんです。
2006年の放映ですから、『よみがえる空』ではUH-60Jは黄色と白の当時の救難機塗装で描かれています。今日のUH-60Jは青を主体とした、いわゆる洋上迷彩になっていて、この華やかな色彩は見られなくなりました。UH-60Jの塗装の変化には、戦闘状況の中にも飛び込んで行って救助にあたる「コンバット・レスキュー」が重視されるようになった、という航空救難団のあり方の変化が反映されています。
新型のUH-60JIIの機体にも、レーダー警戒装置やチャフ/フレアのディスペンサーといった自己防御装置が追加されています。また救難装備でも、ホイストが1基だけだったのが、新型には2基が併設されています。ワイヤーが傷んだり、ウィンチにからまったりした場合でも、2基目のホイストで救助を続けられるようになっています。
『よみがえる空』で内田3尉が操縦するUH-60J、38-4578号機は、コールサインこそ劇中の「ヘリオス78」ではありませんが、実在した機体です。不運にも2011(平成23)年3月11日の東日本大震災のときには松島救難隊(松島基地、宮城県東松島市)に配備されていて、基地が津波に襲われた際に水没し、廃機となってしまいました。
『よみがえる空』には、航空自衛隊機の墜落と乗員の捜索・救助のエピソードもあります。第6話と7話「Bright side of life 前後編」がそれです。主人公と同じ小松基地に所属する戦闘機部隊のF-15DJが墜落するのですが、物語は墜落機の整備員たちの心情、脱出したふたりの乗員の家族の不安を描いて、しかも救助は無慈悲に明暗が分かれる結果となってしまいます。それでも航空救難団の隊員たちは、自分たちの任務に希望を持ち続けます。「That Others May Live (他を生かすために)」をモットーとする航空救難団にとっては、絶望はないのです。
【了】
10月13日(土)新宿ロフトプラスワンにて発売記念イベント開催!
本記事の執筆者、岡部いさくさんも出演する『よみがえる空』のトークイベントが開催されます。
●第2回「よみがえる空-RESCUE WINGS-」BD-BOX発売記念イベント
・日時:2018年10月13日(土) 開場12時/開演12時30分(16時終了予定)
・会場:新宿LOFT/PLUS ONE
・出演者:
<第1部>アニメ関係者によるトーク
松倉友二(プロデューサー)、宮 昌太朗(ライター)、中村 桜(声優)、杉山 潔(プロデューサー)
<第2部>救難団関係者によるトーク
櫻田秀文(元小松救難隊隊長)、児玉研司(放送番組プロデューサー)、岡部いさく(軍事評論家)、杉山 潔(プロデューサー)
・チケット:前売券2000円/当日券2300円(いずれも税別、要1オーダー)
・チケット購入:
http://eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002274076P0030001
特装限定版BD-BOXは11月22日(木)発売
『よみがえる空』TV未放映分を含む全13話を収録したBD-BOXが2018年11月22日に発売されます。映像特典には、小松救難隊、そして救難の「今」を伝える撮り下ろしドキュメンタリー「小松救難隊 最新ドキュメント」を収録予定。とのことです。
●- 航空救難団創設60周年記念 -『よみがえる空-RESCUE WINGS-』BD-BOX[特装限定版]
・発売日:2018年11月22日(木)/予約締切:2018年10月16日(火)
・価格:2万2800円(税別)
・BVC限定版:バンダイナムコアーツの公式メンバーショップ「BANDAI BISUAL CLUB」限定版には、作中に登場する救難ヘリUH-60Jの1/144ダイキャストモデルが特典として付属。2万9000円(税別)
|
|
|
そのほかの映像特典、音声特典など商品情報は公式サイトにて。
●『よみがえる空-RESCUE WINGS-』BD-BOX商品情報
http://www.rescue-w.jp/goods/
●『よみがえる空-RESCUE WINGS-』公式サイト
http://www.rescue-w.jp/
(C)バンダイビジュアル
Writer: 岡部いさく(軍事評論家)
軍事評論家・駄作家・イラストレーター。航空雑誌、艦艇雑誌の編集を経て現在フリー。TVニュースなどでの国内外の軍事問題に関する解説や海外文献の翻訳を行うほか、軽妙な語り口のテキストと味わい深いイラストでもお馴染み。「月刊モデルグラフィックス」誌で「世界の駄っ作機」を、「隔月刊スケールアヴィエーション」誌で「蛇の目の花園」を連載中。