【いまさら聞けない鉄道技術用語】「VVVFインバーター」GTOからIGBT、そしてSiCへ
モーターを制御して速度を上げたり落としたりするための制御装置。いまではVVVFインバーター方式が制御装置の主流ですが、このVVVFも進化し続けています。VVVFの基本や、特徴的な「アノ音」などについて解説します。
そもそも「VVVF」ってなに?
電車や電気機関車、電気式ディーゼル機関車などは、架線や発電機から供給される電気でモーター(電動機)を回して走ります。しかし、電気をそのまま電動機に送るわけではありません。速度を上げたり下げたりするための制御装置が必要です。
現在、鉄道車両の主流となった三相交流電動機を制御する装置が、いわゆる「VVVFインバーター装置」(以下VVVF装置)です。
VVVFとはVariable Voltage(可変電圧)とVariable Frequency(可変周波数)の頭文字。そしてインバーターとは直流を交流に変換する装置のことです。直流電流を三相交流に変換するとともに、周波数と電圧を変化させて交流電動機の回転を制御します。
ここで気になるのは、なぜ電圧も可変させる必要があるのかということ。交流電動機の回転数の制御は本来、周波数を変化させるだけで可能なはずです。しかし実は、出力電圧を下げずに周波数だけを下げると電動機の交流抵抗が小さくなり、電流が大量に流れて電動機が焼損する恐れがあります。そのため、周波数の変化に合わせて出力電圧も変化させ、電動機を保護する必要があるのです。
交流電区間では交流→直流→交流
鉄道用のVVVF装置は基本的にPWM方式で直流を三相交流へ変換しています。PWMはPulse width modulationの頭文字で、「パルス変調方式」とも言います。
パルス変調方式を簡単に言うと、スイッチをオンにして最大電圧を出力している時間とスイッチをオフにしている時間の比率を変化させるものです。これによって出力する電圧を変化させます。
VVVF装置は緻密な高速スイッチングを行うことで電圧を変化させ、出力する方向を周期的に反転させて交流電流の正弦波を擬似的に作ります。スイッチング素子は出力方向が逆向きの2個で回路を構成。このスイッチ回路を3組搭載し、正弦波を120度ずつ、位相をずらした三相交流として出力します。
周波数と電圧の制御は、現在はセンサレスベクトル制御方式が主流です。センサレスベクトル制御は、あらかじめ設定された電動機の抵抗値などの特性定数や電流、電圧から電動機の回転速度を推定して、出力すべき電圧をベクトル演算で決定するもの。低速での短時間トルクを増大させるほか、空転再粘着性能が大幅に向上しています。
なお、交流電化区間を走る交直流車や交流車は、単相交流、三相交流をPWMコンバーター(初期はサイリスタ位相制御の整流装置)で直流に変換してVVVF装置に入力します。コンバーターとインバーターを搭載しているので、制御装置を「CI」もしくは「主変換装置」とも呼びます。
ちなみに、VVVFインバーター車のほとんどは回生ブレーキを採用しています。回生ブレーキ使用時はVVVFインバーター装置をコンバーターとして使用し、三相交流を直流に変換しています。
また、純電気ブレーキ(全電気ブレーキ)も実用化されました。純電気ブレーキは減速から停止までの全てを回生ブレーキで行うものです。停止直前に回生ブレーキを逆相モードに位相を反転させ、停止まで作用させます。基礎ブレーキ装置(空気ブレーキ)は基本的に車輪のロックにのみ使うので摩擦部品の消耗を抑えることができます。
もちろん電気ブレーキを持たない付随車は空気ブレーキを使用しますが、N700系のように回生ブレーキ力で付随車のブレーキ力負担するケースや、遅れ込め制御で付随車と電動車の空気ブレーキ力を変え、電動車については電気ブレーキ力が不足した際に空気ブレーキで補完するなど、電空協調を行っています。
スイッチング素子とレベル数
VVVF装置の要とも言えるのがスイッチング素子です。黎明(れいめい)期には実績のあるSCR(逆阻止サイリスタ)やRCT(逆導通サイリスタ)が採用されました。しかしSCRやRCTターンオフができないため、転流回路を設けるか電流型インバーターにする必要がありました。
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Writer: 松沼 猛(鉄道ジャーナリスト)
1968年生まれのいわゆるブルートレイン、L特急ブーム世代。車両の形態分類と撮影、そして廃線跡が好きで全国各地を駆け巡っている。技術系から子ども向けまでさまざまな鉄道誌の編集長を経験。また、鉄道専門誌やウェブにも多数寄稿している。