ミサイル開発で考えてみよう「DX」 ビジネスも安全保障もデジタル化でどう変わる? 米レイセオン社に聞く〈PR〉
近年、TVCMなどでも聞くようになった「デジタル・トランスフォーメーション」。この概念を軍事分野で推し進めているのが米大手防衛関連企業のレイセオン社です。同社が考えるその重要性について日本支社代表に聞いてきました。
激変する安全保障環境で求められる「変革」
近年、台湾や尖閣諸島問題、北朝鮮の軍事力増強など、日本を取り巻く安全保障環境は一層、厳しさを増してきています。そこで求められるのが、こうした状況に対応できる新しい装備やその基礎となる新技術の開発です。
とはいえ、こうした新装備や新技術を生み出すためには、これまで相当の時間とコストを必要としてきました。急速に変化する安全保障環境に対応するには、これらをいかにスリム化するかが最大の課題といえます。そこで重要となるのが、デジタル技術を活用して、これまでの考え方や常識を覆すような技術革新を起こす「DTX」です。
「DTX」とは「デジタル・トランスフォーメーション」、すなわち「デジタル改革」といったニュアンスの言葉です。「T」を除いて「DX」と呼ばれることもあります。これは、従来、長い期間やコストを必要としてきた技術革新を、デジタル技術により短期間かつ低コストで実現することを目指すものです。そして、このDTXを軍事分野で推し進めているのが、アメリカの大手防衛関連企業であるレイセオン社です。
同社におけるDTXの重要性について、レイセオン・テクノロジーズの一事業部門であるレイセオン・ミサイルズ&ディフェンスの日本支社代表であるクリス・ゴフ氏は次のように語ります。
「脅威は日々進化しており、より複雑になっています。その脅威に対処するべく製品の開発スピードを上げる必要があります。私たちのプレジデントであるウェス・クレマーはよく、『戦場のスピードだけではなく、戦場までのスピードが重要』だと語ります。製品のコンセプトをいかに早く現実のものにするか、このようなことをDTXを活用して実現させています」。
それでは、レイセオン社ではこのDTXをどのように推し進めているのでしょうか。これを見ていくためのキーワードが、「デジタル・スレッド」と「デジタル・ツイン」です。
レイセオンが推す「デジタル・スレッド」と「デジタル・ツイン」とは
「デジタル・スレッド」とは、日本語に訳すと「デジタルの糸」となります。これは、ある装備のデザインから開発、製造、試験、納入、運用に至るまでの各過程におけるあらゆるデータ、および開発や設計の目的や意思決定への経緯などを1本の糸のように撚り合わせ結びつけていき、収集された膨大な情報を、メーカーのみならずその顧客に至るまでいろいろな人達がアクセスできるようにするというものです。
デジタル・スレッドを実現することにより、たとえば現場での運用で判明した問題点を即座に把握でき、そうすることで装備を素早く改善することを可能にするそうです。また、開発から製造、運用に至る各段階で収集された膨大なデータを、AIや機械学習を用いて解析することで、新たな装備につながるアイデアや技術を見つけ出すことも可能になるといいます。さらに、各段階での意思決定が行われた経緯などを後からさかのぼって確認することができるため、責任の所在も明確になるとのことです。
一方、「デジタル・ツイン」とは「デジタルの双子」という意味で、ある装備と全く同じものをデジタル空間上に作り出すというものです。デジタル・ツインを活用することにより、昼夜天候を問わずあらゆる環境をシミュレートして装備の性能をいつでも試験できるほか、実際の運用や整備を考慮した部品などの配置を試行錯誤するのも容易になるといいます。
特にミサイルなどに関しては、実テストを行う必要がなくなれば、試験にかかるコストを大幅に削減できます。さらに、仮に試験で失敗してデータ上の装備が損傷したとしても、その失敗を活かして何度でも仮想空間内での試験を繰り返せます。そうなれば、大胆な発想でも失敗を恐れずにすぐさま試すことができるというものです。
たとえば新しいレーダーを艦艇に搭載する際、艦艇のデジタル・ツインを3Dで作成することで、限られた甲板スペースの中で効率を最大限に高めるシステムを設計することができます。デジタルモデル上で、船員が移動したり、操作したり、修理したりする必要がある船内の空間をマッピングするのです。
これは実際にSPY-6の搭載に使われている手法で、デジタルを活用した設計をすることにより、設計時間を10~20%短縮し、全体のコストを削減することができたそうです。さらにSPY-6の開発にあたっては、同社のエンジニアがデジタル設計と3Dモデリングを用いて、レーダー部品やシステムを生産する前に作成し改良しました。マサチューセッツ州にあるアメリカ海軍のSPY-6を製造するレーダー開発施設自体も、同じモデリング手法を使って設計されています。
DTXの推進は日本にとっても超重要
レイセオン社では、こうしたDTXによる装備品の開発がすでに行われています。アメリカ海軍が今後、多くの戦闘艦艇に搭載を決定している最新鋭レーダー「SPY-6」に関しては、その開発から製造、そして今後の運用に至る過程全体を通して幅広くDTXが導入されています。
たとえば、開発時にデジタル・ツインによる3Dデザインを通じて、実際に部品などを製造する前にさまざまな検証を行ったといいます。レーダーなどの大型な製品を製造する工場自体をデジタル・ツインを使って検証し、ロボットを最適に配置をするなど、さまざまな面から効率化を図っています。
さらに、SPY-6を艦艇に搭載することをデジタル空間上でシミュレートすることで、運用に関するあらゆる問題点を洗い出せたうえ、実戦を模擬したミサイルの探知や迎撃なども試験できました。
運用が開始された後も、SPY-6はソフトウェアのアップデートによってさまざまな能力向上が施される予定であり、そこでもデジタル・ツインで得られるデータは大きく貢献することでしょう。
このように、レイセオン社はDTXを活用した装備品の開発を通じて、これからの安全保障環境の変化に対応しようとしています。こうしたDTXを日本においても推進する重要性を、ゴフ氏は次のように説明します。
「DTXは開発のプロセスを加速させるためにテクノロジーを活用することです。つまり、マニュアル作業やその他の非効率な作業をなくし、本当の課題に集中し、製品設計、開発、供給、整備、改良という一連の流れを脅威の進化よりも速いペースで実現します。
私たちはDTXから学び、改善し続ける中で、私たちの経験、知見を同盟国の皆様と共有できればと考えています」。
今後、日本の防衛産業においてどのようにDTXが推進されるようになるのか、注目が集まります。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。