システム導入で逆に不効率 目的と手段取り違えるな【ざんねんな物流DX #2/Merkmal】

前回は、システム導入は手段でしかなく、「IT化にはシステム導入は必要だが、システム導入=IT化ではない」と述べた。これを踏まえて今回は、そもそもIT化が目指すべきものとは何かを考えていこう。

「システム導入=IT化」? その勘違いの理由とは

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そもそも「IT化」とは何か(画像:写真AC)。

「IT化? 積極的に行っている方じゃないかな、うちの会社は。数年前に全社デジタコにしたし、ドラレコも導入したしね」──このように語る、ある運送会社の社長がいた。しかし、デジタコおよびドラレコの積極活用は行っていない。デジタコは、運転日報の出力のみに用い、ドラレコは交通事故が発生した際の防御手段として導入しただけだと言う。

 同社が導入したデジタコもドラレコも、GPSや加速度センサー、通信モジュールが搭載されたクラウドシステムである。だが、管理画面にアクセスしたことは、ほんの数回しかないそうだ。

 最近のデジタコやドラレコには、加速度センサーなどからトラックドライバーの運転を判定、安全運転やエコドライブへの指標をアウトプットする機能を持つものも多い。だが、同社では、そういった活用は一切していない。IT化というのであれば、これらの機能を用いて、従来の勘と主観に頼った安全運転指導を、定量的なものへと変革してほしいものだ。

 これは極端な例かもしれないが、システムを導入した時点で、IT化ができたと勘違いしてしまうケースは、物流企業に限らず多いのではないだろうか。

システムを導入しなくとも、業務改善は実現できる

 IT化を目指す企業には、それぞれ目的があるはずだ。生産性向上、正確性の担保をはじめ、先のエピソードで挙げた属人化の解消や、プロセスの知財化などは、最近注目されるシステム導入の理由である。

 しかしこういった目的は、IT化なしには達成できないのだろうか。決してそんなことはないだろう。

 トヨタ生産方式を考えてほしい。トヨタ自動車の創業者である豊田佐吉氏が、トヨタ生産方式(リーン生産方式とも呼ばれる)における二つの柱の一つである自働化を実現した豊田式汽力織機を開発したのは、1896(明治29)年のことである。もちろん、その当時にITという言葉は存在しない。トヨタ生産方式は、昭和20年代に研究され、全工場に展開されたのは、1960(昭和35)年のことだ。有名なカンバン方式にしても、当時は文字通り看板を工場各所に掲げていた。

 現在、カンバンもデジタル化され、トヨタ生産方式全般もシステムによって管理されている。だが、世界に名だたるトヨタ生産方式は、IT化という言葉すらない時代に完成していた。IT化は、さらなる進化を目指した結果でしかない。

 業務改善や生産性の向上は、システムがなくとも実現はできる。だが、世の中には便利なシステムが多数あり、より効率的に目的達成に近付くことができるシステムを利用しないのは、もったいない。だから多くの企業が、システム導入を手段として用いることで、業務改善や生産性向上を目指すだけのことである。

「システムを導入さえすれば、業務改善や生産性向上ができる」──それは勘違いなのに。システムの効果が世に広く広まるにつれて、誤った認識も広がってしまったのは、とても残念である。

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