アメリカ海軍の“無人艦”横須賀に現る! その名も「幽霊艦隊」 一体どう戦うのか

“自律航行”で太平洋横断!

 この間、USVはアメリカ本土から出入港時を除くほぼすべての期間、乗員による監視のもとにほぼ自律航行が行われたとのこと。ちなみにアメリカ海軍の無人水上艦が、国際日付変更線を越えるのはこれが初めてのことで、もちろん、日本への寄港も今回が初めてとなります。

センサーにもシューターにもなれる? USVの重要性

 今回のIBP 23.2において、具体的にどのような内容の試験が行われているのか、その全貌は未だ明らかにされていません。ただし、これが中国の脅威に備えているアメリカ海軍第7艦隊の担当エリア内で実施される初の試験であるという点は、非常に重要な意味を持っていると筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 というのも、実際に有事における活動が想定される海域で、かつ地域内に配備されているアメリカ軍の各部隊と協力しながら試験データを収集できることは、USDIV-1のみならず、ほかの部隊にとってもUSVに関する理解を深める非常に貴重な機会であるためです。

 現在のところ、アメリカ海軍ではLUSVおよびMDUSVを、ISR任務や対潜戦支援、ミサイル発射プラットフォーム、さらに物資輸送など幅広い任務に投入することを目指しています。特に台湾有事を想定した場合、南西諸島周辺の東シナ海では、中国軍の長射程対艦ミサイルや潜水艦の存在により、アメリカ海軍や海上自衛隊の大型有人艦艇の活動が困難となる恐れがあります。

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第1無人水上艦隊司令官のジェレマイア・デイリー中佐(稲葉義泰撮影)。

 そこで、人命が損なわれることがなく、また比較的安価なUSVが先行して東シナ海で活動し、発見した敵艦艇などの情報を有人艦艇や地上部隊が受信して、対艦ミサイルや対潜ミサイルで攻撃するというシナリオも考えられるでしょう。

 つまりUSVは今後、有人艦艇や地上部隊にとっての「視覚の拡大」をもたらす存在になると考えられます。さらに、USV自身にミサイルを搭載して、ほかのUSVと協調しながら攻撃できるようになるかもしれません。実際、2020年には「レンジャー」の後部甲板に設置されたランチャーから、艦対空ミサイル「SM-6」を発射する試験が行われています。

 ただし、USVは既存の駆逐艦や空母といった有人艦艇を置き換える存在にはなりえません。アメリカ海軍においても、USDIV-1のもとで「いかに有人艦艇とチームを組むことができるか」という点に焦点を当てたコンセプトの開発が進められています。こうしたアメリカ海軍の先進的な取り組みに、日本がどのように呼応するべきかを考えることが重要でしょう。

【了】

【え…!】「幽霊艦隊」こと無人艇レンジャーの艦内です

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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