日本の“現役”護衛艦「海外へ輸出」なるか!? ベテラン艦に白羽の矢 すかさず横やりを入れる中国

日本とフィリピンが海上自衛隊の護衛艦輸出に向けた協議を開始したと報じられています。しかも新造艦ではなく“中古艦”の輸出。そこに懸念を示しているのが中国です。

是が非でも、早く海軍力が欲しい!

 フィリピンは大小7000以上の島で構成される群島国家です。CADCはその島嶼を敵性勢力に占領されることを防ぐという国防構想で、これを実現するためには、敵性勢力の輸送船や揚陸艦などを洋上で撃破する必要があります。

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フィリピン海軍のデル・ピラール級哨戒艦「アンドレス・ボニファシオ」。ホセ・リサール級より大型だが、アメリカ沿岸警備隊の巡視船(カッター)を再就役させた艦のため、ミサイルやアスロックは装備していない(竹内 修撮影)

 しかし現状のフィリピン海軍には2016年から2隻を導入したホセ・リサール級フリゲートしかCADCの実現に使用できそうな水上戦闘艦はありません。フィリピン海軍は2025年5月にホセ・リサール級(満載排水量2600トン)より大型(同3200トン)で兵装も充実しているミゲル・マルバー級フリゲートを就役させていますが、財政上の理由から同級の2番艦の建造は目途が立っておらず、CADCを実現するにはほど遠い戦力です。

 こうした事情から、間もなく海上自衛隊でお役御免になるあぶくま型に白羽の矢が立ったのだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

冷戦後の欧州と似た構図? 中国の懸念

 冷戦終結後に統一を果たしたドイツは、東ドイツ軍が保有していたMiG-29戦闘機や、西ドイツ陸軍が予備保管していたレオパルト2戦車などを、ポーランドに安価で売却して同国の防衛力を強化することで、ドイツにとって最大の安全保障上の最大の脅威であるロシアに対する防衛力を間接的に強化しています。ドイツのポーランドへの兵器輸出は、当時ロシアの神経を尖らせたと伝えられています。

 今回のあぶくま型護衛艦のフィリピンへの輸出は、国外メディアでも報じられており、中国国防部の報道官は2025年7月14日の会見でこの報道について「(日本の)武器輸出はアジア太平洋地域に不安定要素を作っている」と述べて批判しています。今回の中国国防部の反応は、冷戦後のドイツに対するロシアのそれに近いのではないかと思います。

 ただ現状、日本は防衛装備移転三原則に基づき、護衛艦をそのまま輸出するのは困難な状況にあります。フィリピン海軍の要求に応じた改造作業を名目上、共同開発にする必要がありますし、搭載するハープーンやアスロックを開発したアメリカの承認も得なければなりません。

 このようにあぶくま型をフィリピンへ輸出することは簡単ではないのですが、自衛隊と日米同盟だけでは日本の安全保障を成立させることが困難になりつつある中で、フィリピンの防衛力強化に協力して、間接的に日本の安全保障をより盤石にする可能性のあるあぶくま型護衛艦の輸出は、やってみる価値のあることだと筆者は思います。

【妙なアニメキャラごと輸出!?】フィリピンに渡るかもしれない“現役”護衛艦(写真で見る)

Writer:

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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