運転士が子どもに手を振るのはOK?難しい「安全」と「人間味」の線引き…規程にはない“沈黙のルール”とは

子どもが列車に手を振り、運転士が優しく応える。心温まるこの光景は、鉄道会社の服務規程で明確に禁止されているのでしょうか。その是非は、「安全」と「人間味」という、相反する要請が交錯するグレーゾーンにあります。

規程の「沈黙」とその根拠となる国の「省令」

 子どもが列車に手を振り、運転士が優しく応える光景は心温まりますが、鉄道会社の服務規程で明確に禁止されていないのでしょうか。ここには「安全」と「人間味」という、相反する要請が交錯するグレーゾーンが存在します。

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ブレーキ取扱中は絶対に手を触れない?(画像:写真AC)

 結論からいえば、多くの鉄道会社の服務規程に、子どもに手を振る行為を名指しで禁止する条文は存在しません。

 しかし、これは「許可されている」ことを意味するわけではありません。この行為は、「安全上問題なく業務に支障のない範囲」という、極めて曖昧で文脈依存的な基準に委ねられています。

 そもそも運転業務は、各社の社内規程のさらに上位にある国の「運転の安全の確保に関する省令」に則って厳格に律されています。

 この法的拘束力を持つ大原則に基づき、規程は包括的な「前方注視義務」や「職務遂行に直接必要のない行為(本務外行為)の禁止」を掲げています。

 この原則からいえば、手を振ることは厳密には推奨されません。JR東日本への取材によると、駅への進入時など運転士がブレーキを扱っている場面では「ブレーキから手を離してはいけない」という厳格な制限が課されています。

 また多くの鉄道会社では走行時の基本姿勢として、運転士がマスコンやブレーキハンドルを保持することが求められており、これが走行中の手振りを事実上困難にしています。

 さらに、日本の鉄道業界が背負う「安全最優先」という厳格な規律があります。この規律は2005年のJR福知山線列車脱線事故の教訓から、より徹底されたものとなりました。

 この事故の原因は、運転士の遅延回復の焦りや、ミスを恐れる組織文化によるものとされています。鉄道業界では以降、運転士の認知的負荷を最小限に抑え、運転という本来業務から注意を逸らすあらゆる可能性を排除するシステムへの転換が図られました。

 この安全パラダイムにおいて、手を振る行為はいかに小さなものであっても運転士の注意を外部に逸らす「不必要な業務」であり、「手順からの逸脱」というリスクの芽として捉えられる可能性があります。

【瞬時に見分けられる?】これが運転台から見える景色です(画像)

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