難しい地下鉄の「定義」 あの私鉄も三セク鉄道も本当は地下鉄?
「地下鉄」といえば「地下を走る鉄道」というイメージがあります。しかし、実際は「地下鉄」と呼ばれていても地上を走っていたり、逆に「地下鉄」とは呼ばれていなくても地下を通る鉄道もあります。「地下鉄」という言葉に正式な定義はあるのでしょうか。
地下を通る鉄道=地下鉄ではない!
日本に地下鉄の事業者はいくつ存在するのでしょうか。一般的には札幌市営地下鉄、仙台市地下鉄、都営地下鉄、東京メトロ、横浜市営地下鉄、名古屋市営地下鉄、京都市営地下鉄、Osaka Metro、神戸市営地下鉄、福岡市地下鉄の9都市にある10事業者を指しますが、鉄道ファンならずともこれに納得する人はあまりいないのではないでしょうか。
東京メトロの丸ノ内線や東西線は一部の区間で地上を走っているのに、地下鉄と呼ばれているのはなぜなのか。あるいは、東京メトロ南北線と直通運転をしている埼玉高速鉄道は地下鉄ではないのだろうかとか、半蔵門線と一体的に計画された東急電鉄の新玉川線(現在の東急田園都市線・渋谷~二子玉川間)、同じく都営新宿線と一体化している京王新線は地下鉄といってもいいのではないかとか、いろいろな疑問が湧いてくることでしょう。
「人口37万の地方都市に『地下鉄』があるワケ」(2018年5月15日)で取り上げられた長野電鉄の長野線は、長野駅を出発すると長野市の中心部を2kmほど地下トンネルで走っています。そのような特色を記事では「地下鉄」と表現していましたが、この記事が公開されると、SNS上では「長野電鉄は地下鉄か否か」という議論が始まりました。「地下鉄の定義」は鉄道ファンを熱くさせるテーマのようです。
結論から言ってしまえば、日本に明確な地下鉄の定義は存在しません。しかし、その歴史と役割を辿ると、地下鉄道が地下鉄として成立するためのいくつかの条件が見えてきます。
日本初の地下鉄道トンネルは仙台の私鉄線
地下鉄の最大の特徴は、いうまでもなく地下を走っていることにあります。日本初の地下鉄は1927(昭和2)年12月30日に開業した東京地下鉄道・上野~浅草間(現在の東京メトロ銀座線)ですが、これが日本で初めて地下に建設された鉄道かと言うと、そうではありません。
1925(大正14)年に開業した宮城電気鉄道(1944年に国有化されて現在はJR仙石線)は、国有鉄道の東北本線と仙台駅を越えて東口側への延伸を目指していたため、起点となる仙台駅から200mほどの区間を地下トンネルとして建設しました。同じ立体交差を目的としながら、高架鉄道とは異なる手段を採用した地下鉄道だったというわけです。
「丸ノ内線は『八重洲線』になっていたかも? 東京を駆ける地下鉄の名前あれこれ」(2018年5月26日)で取り上げたように、東京地下鉄道は開業当初、ポスターや出入口に「地下鉄道」と表記していました。しかし、やがて略語である「地下鉄」をサービスブランドとして積極的に使うようになります。つまり、単に地下を走る鉄道ということを意味していた「地下鉄道」から、都市交通を担う次世代の交通機関という概念が分離して、「地下鉄」という用語が誕生したと言えるでしょう。
三セク都市鉄道も「地下鉄」として紹介
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Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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