【空から撮った鉄道】肥薩線の大畑ループ&スイッチバック 「空鉄本」制作のために飛んだエピソード
日本には、全国津々浦々、峠を克服する鉄道があります。スイッチバックやループ線など、その土地その土地で様々な方式が採られています。今回は九州にある、ループ線とスイッチバックが合体した、JR肥薩線を紹介します。
書籍化のために撮りおろし
日本にはいくつもの鉄道の峠があります。かつてはスイッチバックやループ線などで峠を克服していました。現代は技術が進み、急峻な峠や山塊をトンネルや高架橋などで貫く路線が増えていますが、いまなお明治時代の線形を維持したまま峠を克服している箇所があります。そのひとつが、JR九州肥薩線大畑(おこば)駅(熊本県人吉市)周辺にあるスイッチバック構造を備えたループ線です。ここを空撮することになりました。
空撮のきっかけは「空鉄本」の制作でした。2011(平成23)年に初個展開催後、せっかくなので書籍化しようと編集氏と打合せを重ね、書籍化へと動き始めた過程で、ぜひ峠を入れようということとなりました。では、撮りおろしになるのだからどこが魅力的かと考えたところ、「大畑ループ&スイッチバック」が思いついたのです。
肥薩線人吉~吉松間は霧島連山の山岳地帯を行きます。両駅間約35kmの距離に対し、約430mの高低差があり、ループ線が大畑駅に1ヶ所、スイッチバックが大畑駅と真幸(まさき)駅(宮崎県えびの市)の2ヶ所にあります。この線形は1909(明治42)年に完成した当時のまま、現代でもほぼ変化がありません。
ではどうやって撮影し紹介するか? 少々悩みました。人吉~吉松間を1枚の写真で表現することも可能ですが、どうしても山ばかりの写真となり、肝心の線形が判別しにくい。そこで、真幸駅のスイッチバック、大畑駅の「ループ&スイッチバック」と2回に分けて紹介しようと決め、この区間の撮影は大まかに2ヶ所となりました。
条件は「ループ&スイッチバック」を真上から1枚で撮影することと、撮影のときに定期列車の「いさぶろう・しんぺい」(下り列車が「いさぶろう」、上り列車が「しんぺい」)を入れること。最大のネックは、雲影のないクリアな視程の天気を選んで、ピンポイントで東京から鹿児島へ移動して空撮するということでした。
新緑の5月は緑もよく生え、そんなに気温も高くないのでモヤっとする日も少なく、経験上飛べば撮れる比率も高いです。航空会社とは本番日のほかにいくつか予備日を設定し、連絡を密にしながら「この日ならばいける」と決めて移動しました。
肥薩線の上空を行ったり来たり
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Writer: 吉永陽一(写真作家)
1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。
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