吉祥寺をめぐるもうひとつの鉄道路線計画、武州鉄道

三鷹から埼玉県秩父市を結ぶとともに、吉祥寺への延長も想定した鉄道路線が計画されました。それが武州鉄道です。しかしながら武州鉄道は実現には至りませんでした。いったい何が起こったのでしょうか?

滝嶋總一郎が描いた三鷹~御花畑間を結ぶ壮大な計画

 以前に、京王と西武が吉祥寺を軸に鉄道の新線建設を争った歴史のなかで、京王井の頭線の延伸計画について紹介しました。この京王井の頭線延伸計画の後に出てきたのが「武州鉄道」計画でした。少し鉄道の歴史に詳しい人であれば、大正時代から昭和初期にかけてJR宇都宮線の蓮田を起点に川口市神根を結んでいた武州鉄道を思い浮かべるかもしれませんが、両者に関係はありません。

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JR中央線と京王井の頭線が乗り入れる吉祥寺駅。武州鉄道は三鷹から吉祥寺へも路線の延長を計画していた(2019年2月、鳴海行人撮影)。

 武州鉄道の計画の発起人は滝嶋總一郎という人物で、陸軍に従事し、戦後は米軍に取り入り旧陸軍のスクラップなどを譲り受けて転売し、財を築いた人物です。とくに1950(昭和25)年の朝鮮戦争以降に儲け、米軍ハウスの建設も手がけました。1957(昭和32)年には不動産賃貸業の「大日産業」を設立。滝嶋は吉祥寺に「吉祥寺名店会館」というビルを持つに至りました。

 そして、滝嶋はいつしか鉄道建設計画を夢見るようになります。それは三鷹から玉川上水の南側を進み、鷹の台、箱根ヶ崎、東青梅を経由し、そこから山中に入って埼玉県の名栗村(現:飯能市)を経由し、秩父市に至るという壮大な路線でした。また、将来的には三鷹から吉祥寺の間は何らかの形で路線延長をする計画でした。

 彼は雑誌「財界」のインタビューに対し「私は武蔵野に生まれ、武蔵野に育った。しかしこの東京からいくらも離れていないところに、神武以来の未開の地があるのは何故だ。鉄道がないからだ。私は幸いスクラップで儲け、米軍住宅建設で巨利を得た。このあたりで、国のため、社会のために奉仕をしたい。これが、私の武州鉄道にかける夢だ。」と答えています。

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滝嶋總一郎が建てた「吉祥寺名店会館」は現在、「オリンピック吉祥寺ビル」となり、東急百貨店吉祥寺店が営業している(2019年2月、鳴海行人撮影)。

 鉄道計画実現のため、滝嶋は政財界で人脈とカネを生かします。まずは取引銀行で当時躍進していた埼玉銀行の頭取、平沼弥太郎に近づきます。平沼は名栗村の出身で、私財6億円を投じて郷里に「三蔵法師塔(通称:鳥居観音)」を建立しようとしていました。これに対し滝嶋は50万円を寄付したことで、平沼は滝嶋にすっかり心酔してしまいます。滝嶋が鉄道により三蔵法師塔を訪れる人を増やすべきだと進言すると平沼は同調し、埼玉銀行が武州鉄道計画のスポンサーになったのです。滝嶋はあっという間に9200万円を埼玉銀行から融資してもらうことに成功しました。

 また、滝嶋はあらゆる人脈を利用して武州鉄道の発起人に政財界の大物を集めます。その中には元国鉄総裁加賀山元雄、武蔵野市長の荒井源吉をはじめ経団連会長、秩父セメント、大手証券会社の社長も名前を連ねていました。

 そして1959(昭和31)年1月、運輸省に三鷹~御花畑間60.32kmの免許を申請します。申請では軌間1067mmの普通鉄道を敷設し、途中33駅を設け、三鷹~御花畑間で旅客輸送、箱根ヶ崎~御花畑間で貨物輸送を行う予定でした。

 さらに路線免許を出願した2ヶ月後に白雲観光という会社を興して土地買収会社とします。埼玉銀行から累計約10億円の融資を受け、1960(昭和35)年3月までに141万平方メートルの土地を買収しました。計画線沿線の自治体では、こうした武州鉄道の計画推進の動きを歓迎するところも多く、当時の自治体広報誌にも土地買収契約実現を歓迎する報が載せられています。

 土地買収の傍ら、滝嶋は最新の交通モードにも関心を示します。滝嶋が目をつけたのがモノレールで、当時最先端であったアルヴェーグ式の導入を検討し、これによって騒音が理由で反対が多かった武蔵野市内の鉄道建設、および三鷹から吉祥寺への路線延伸を可能にしようと考えていました。もし実現していれば、東京モノレールとほぼ同じ時期のモノレール開業となったことでしょう。

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Writer: 鳴海行人(まち探訪家・フリーライター)

1990年、神奈川県生まれ。私鉄沿線で育ち、高校生の時に地方私鉄とまちとの関係性を研究したことをきっかけに全国のまちを訪ね歩いている。現在はまちコトメディア「matinote」や「公共交通×IT最前線レポート」などで交通やまちに関する記事を執筆中。趣味はローカル私鉄やローカルバスに乗ること。

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