戦略崩壊状態の鉄道会社 「アフターコロナ」を大エポックメイキングにすべき

新型コロナウイルスで鉄道会社をとりまく環境は大きく変化。定期収入もインバウンドを含む定期外収入も元に戻らぬことが考えられ、中長期的な戦略見直しを迫られています。「安定」が特徴だった鉄道会社はいま何をすべきなのでしょうか。

新型コロナの終息後 そもそも利用者は回復するのか?

 近々、2020年第1四半期(4~6月)の決算が各社で発表されます。鉄道業界においては、ご存知の通り新型コロナウイルスの影響により、ゴールデンウィークをはじめ各地への帰省や旅行者の収入が見込める例年よりも、大きな減収が如実に数値として現れることでしょう。

 緊急事態宣言は解除されたものの7月に入って感染者数は再び増加しはじめ、いまだに新型コロナが猛威をふるっています。もし今後、再び緊急事態宣言のような外出自粛がなされれば、再度の大きなダメージは免れません。そして新型コロナが終息したからといって、果たしていままで通りの利用者回復がなされるのでしょうか。

何より「定期収入」を揺るがすテレワーク・外出自粛

 緊急事態宣言下には各社テレワークが進み、通勤電車の利用客も大幅減少となりましたが、解除後は徐々に回復してきたという話もあります。

 ただ、内閣府が6月21日に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」の結果によれば、通勤時間が減少したと回答した人のなかで「今後も減少した通勤時間を保ちたい」と答えた人が約7割にのぼりました。つまり、コロナ感染防止に関係なく、今後もテレワークを継続する企業が増える可能性があります。

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山手線のE235系電車(画像:写真AC)。

 ここで鉄道にとって課題になるのが定期券、つまり定期収入の減少です。鉄道会社の運賃収入のうちの定期収入は、各社多少違えどは約半数を占めています。いままで人口の増減比によって変動し、運輸収入のキャッシュエンジンと考えられていた定期収入。そのベースがいよいよ揺るがされるときが来ています。

コロナ禍で戦略は崩壊状態 定期外・その他事業にも影

 加えて各社はこれまでインバウンドを含めた定期外収入をいかに増やすかに奔走してきた数年でしたが、その戦略も崩壊状態にあります。今夏の人出も本調子とはいえませんし、特に海外からの需要は、ここ1~2年で持ち直す気配はありません。ホームドア設置を含めた安全のための設備投資計画についても、利用客減少によって大きな影響を被るのは、各社にいえることです。

 さらに運輸のみならず、関連事業についても一蓮托生です。大手私鉄を中心とした各社が多角化により沿線シナジーの獲得かつリスクヘッジな経営を行なってきていますが、もともと鉄道利用時に副次的な収益をとるスタイルですから、例えば、ホテル・レジャー事業についても同様にダメージは甚大です。

鉄道会社 「公共」と「民間」の狭間で

 鉄道の特徴そのものが足かせとなることもありました。緊急事態宣言中の鉄道利用者数は激減し、ほぼ空気輸送をしていた列車も、なかなか運休することは容易ではありませんでした。当然ながら、鉄道は店舗の休業要請よろしく簡単に需給に応じたサービス提供とはいかないのです。鉄道は社会インフラのひとつとして運行しており、「公共交通」としての役割を果たさなければならないからです。

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JR九州の観光特急「ゆふいんの森」。JR九州は2016年に完全民営化を果たした(恵 知仁撮影)。

 一方、他業界と同じく「民間」としての試練、いわゆる収入減少が訪れたとき、これらの減収を補うためJRをはじめとする各社も社債の発行を決め、有利子負債を背負って資金充足をはかることを行いました。このあたりは「民間企業」であるがゆえ致し方ないのかもしれませんが、一方で不採算の店舗を畳むように、例えば地方の赤字路線を一気に廃線できないこともジレンマなのです。

法改正も含め「新たな収入源」検討のための働きかけを

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Writer: 西上いつき(鉄道アナリスト・IY Railroad Consulting代表)

大阪府出身。大学卒業後、名古屋鉄道にて運転士・指令員として鉄道運行に携わる。退職後、シンガポールの外資系企業にて国際ビジネスに従事。帰国後は東京を拠点として活動し2019年にIY Railroad Consulting設立、コンサルティング・セミナー・海外向け鉄道関連事業等を行う。東京交通短期大学・特別講師。著書に『電車を運転する技術』。

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