艦乗りが一発で起床する「呪文」を唱えた結果… 出産がまるで自衛隊の訓練風景に
自衛隊員は休める時に休み、活動するときはガムシャラに動くことが求められます。そのオンとオフの「切り替えスイッチ」を出産時に動かしてしまった筆者が巻き込まれた、産院での悲喜こもごもに迫ります。
護衛艦の中と錯覚するような出産風景
自衛官と結婚すると生活がなにかとマッチョになりがちですが、出産でもちょっとした訓練気分を味わえるかもしれません。
海上自衛官のやこさんと結婚した私は、出産予定日を控えたある日、突然、破水してしまいます。このとき時間は真夜中、やこさんは就寝中。彼は一度眠るとなかなか起きません。
しかし私には秘策があります。
「ワッチでーす」
この呪文を唱えると、艦乗りはもれなく飛び起きます。海上自衛隊の艦艇などは、出港中は24時間体制で運用するため、交代時に「ワッチです」という言葉をかけるのです。
こうして“無事に”目を覚ましたやこさんとともに車で産院に向かった私。しかし産院で思わぬ言葉を告げられます。
「まだ出産までかかりそうだから階段昇降して陣痛を促しましょう!」
冷静に考えてほしい。お腹は重く、なんなら陣痛もある。なのに階段を往復!?
さすがにやこさんも断るだろうと様子を伺うと、「上官命令ならばやるしかあるまい」と一言。
ワッチで起こした時点で気づくべきでした。私はあの時、彼の“国防スイッチ”を押してしまったのだと。地上5階の建物をもう登れないと泣く私と「まだいける!」と激励するやこ班長。どう見ても訓練風景ですが、ここは産院です。
やがて陣痛も規則的になり陣痛室へ通されます。やこさんは階段昇降の疲れもどこ吹く風で陣痛のモニターを読み、私に陣痛がくるタイミングを伝えます。衝撃に備え! 私も変なスイッチが入り「ここはCIC(中央戦闘指揮所)だ…」という幻覚を見るほど。
そうして幻覚を見ながら格闘すること実に36時間。無事、「海自オタ」の大事な登場人物、娘のみーちゃんが誕生したのでした。
やりきった私の横で、もっとやりきった顔のやこさん。このあと出産の衝撃で怪我をし、しばらく匍匐前進の日々になるのですが、それはまた別のお話。
【了】
Writer: たいらさおり(漫画家/デザイナー)
漫画家・デザイナー。夫のやこさん、娘のみーちゃんと暮らすのんきなオタク。海自にはまってからあれよあれよと人生が変わってしまった。著書「海自オタがうっかり『中の人』と結婚した件。(秀和システム)」「北海道民のオキテ(KADOKAWA中経出版)」各シリーズ発売中。
コメント