「国産旅客機つくるぞ!」経産省が今ブチ上げたワケ 「MSJ失敗」の轍は踏めない…どんな戦略が?
「どうしても実用化したいなら奥の手も…」とはいかず?
仮に再挑戦する機体がTC取得にまでたどり着いた場合、MSJの轍を踏まない手段は考えられるのでしょうか。ひとつ有効なのではないかと一部で浮上している策は、米国のTC取得前に日本の国土交通省航空局がTCを発効し、日本国内でのみ運航し知見を蓄えた末にFAA(アメリカ航空局)のTCを取得するというものです。
実際MSJでも日本のTC先行が有効、との声もありました。ちょうど、中国がARJ21やC919を自国内でのみ運航させているのと同じ手法です。
MSJでは、国内航空会社の受注数は57機と限られていたことから、世界をマーケットとするうえで、どこまで国内先行策が有効だったか分かりません。むしろ、日米関係の下でFAAのTCも同時に取らなければ、世界中から日本の技術力が疑問視される可能性すらあります。となると、現状ではあくまで、FAAをはじめとする各当局のTC取得を目指すスタンダードな手法が取られると見られます。
国産旅客機への再挑戦は、経産省がどれほど本気か、産業界にそれがしっかり波及するかを今後見ていかねば結論は出ません。MSJ失敗を身に染みて知る関係者が活躍しているうちに、失敗のままでは「もったいない」、それを「有効活用」するのが良いとの判断は理解できます。
一方、日本の航空機産業が取り組む航空自衛隊の「次期戦闘機」は英伊と共同開発なだけに、開発力も生産への雇用も3か国で分割されます。そのため、民間旅客機にも再度望みを託した可能性もあります。
MSJの開発が始まったのは、YS-11の生産が終了した1973年から35年後でした。経産省は2035年の量産を目指すとするだけに、開発のゴーサインにさえも時間的な余裕はないと言えます。
【了】
Writer: 相良静造(航空ジャーナリスト)
さがら せいぞう。航空月刊誌を中心に、軍民を問わず航空関係の執筆を続ける。著書に、航空自衛隊の戦闘機選定の歴史を追った「F-Xの真実」(秀和システム)がある。
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