「電気を運ぶ船」そろそろ動きだす? “新型船”も発表 「海を送電線にする」壮大プロジェクトの全貌
結局いつできるの?「電気運搬船」
そこでパワーエックスは電気運搬船に蓄電池を積載するため、ノルウェー船級協会(DNV)や日本海事協会(NK)などの国際船級認証や適用規格に準拠した安全な蓄電池として、新たに水冷電池モジュールを開発。すでに岡山県玉野市の蓄電池製造工場「Power Base」で本格的な製造に向けた生産ラインの設計と設置も行っています。
「やっと船に乗せられる電池ができたので、いよいよ船を作ってビジネスをやろうというところまで来た」(伊藤社長)
海上パワーグリッドが現在開発を進めている100TEU型(20フィートコンテナ約100個積載可能)電気運搬船「Power Ark 100」の初号船「X」は約9200総トン、全長 140 メートルで、バッテリーからの給電で航行が可能な電気推進船です。20フィートコンテナ型LEP(リン酸鉄リチウムイオン) 電池96個を積載でき、総電池容量は241メガワット時にもなります。充電と放電は3 時間という短時間で行えるようになっており、充電と蓄電の時に発生する大量の熱を、船の中から排出することを考慮した設計を取り入れています。
そして、この「Power Ark 100」の派生形として発表されたのが「Power Barge」です。「Power Barge」は、全長約81m、載貨重量約6000トンの大型バージで、推進機関を持たず、効率的に大量の荷物を運ぶために設計されています。
同社の佐藤直紀取締役は「電気運搬船は遠く、そして波の荒いところでも航行ができる。一方で高価な船を必要としない波が穏やかで、近距離の輸送は、バージで十分だと判断した」と話します。
「我々は電気運搬船と電気運搬バージを使い、再エネの非常に豊富な九州から中国、四国地方への電気の送電を行いたいと考えている。特に九州はやはり離島が非常に多く、再エネがなかなか進んでいない所へ電気運搬船というモデルを使い、九州で余っている電気をこの離島に届けて回るということも可能だと思っている」(佐藤取締役)
今後のスケジュールとしては、2024年夏までに電気運搬船「Power Ark 100」の詳細仕様書を完成させる予定。九州、北海道、関東のいずれか1つでプロジェクトを作りつつ、建造のスケジュールを確定して、1隻目の建造に入る考えを示しています。
順調に進めば2025年に建造が始まり、2026年後半には竣工・商業運航が行われる見込みです。設計は日本シップヤード(NSY)が、建造は今治造船が手掛けます。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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