苦境のボーイングどうなる? 異例の「航空ショー2連続欠席」はマズイ理由 第三国のライバルは勝負に出た
もちろん「体質改善」には動いているが…
もしファンボロー航空ショーで実機展示が見送られるとなれば、ボーイング自身が危機的状況を世界のひのき舞台で一層知らしめることになりかねません。
シンガポール航空ショーでは、中国がボーイング737とエアバスA320のライバルに仕立て上げようとするC919を展示し、海外マーケットに向け一種の“勝負“に出ました。ボーイングはそれとは対象的な状況です。
ところで近年、ボーイングは企業体質が変化したと指摘されてきました。
2000年代中頃は経営改革により株価が回復したと評価されましたが、昨今は技術力より経営利益を重視するようになったとされ、新型コロナ禍後の技能者の再雇用が進んでいないとも指摘されています。航空機メーカーの技術力は安全確保に直結するため、こういった風潮はボーイングの信頼へ疑問を投げかけているといってもよいでしょう。
こうした中で、パリ航空ショーと並ぶ世界の2大航空ショーであるファンボローでも実機を展示しなければ、信頼をさらに失うことになりかねないのです。
シンガポールでの展示見送りとなった「737MAX」シリーズのひとつ737-10の展示は難しいにしても、安全性に定評のある大型機「777」シリーズの新型派生型777-9は、需要があるマーケットも異なります。後者であれば、展示によりアピールができるはずです。
ボーイングではこうした経緯もあって、デビッド・カルフーン現CEO(最高経営責任者)が2024年末までに退任する意向を示しています。しかし、同社の方向性に変化が訪れるのは先になるでしょう。そのため、ファンボロー航空ショーで実機が展示されたとしても、ボーイングの社内事情が好転したと見るのは早計かもしれません。しかし実機展示がなければ、もっと深刻な状況にあるといえるでしょう。
大型機から小型機をレパートリーにそろえる開発メーカーが1社のみになると、世界中の航空会社への販売価格がメーカーの“言い値”になり、これは将来的に航空運賃に反映され、こちらも高値になる可能性があります。1社のみではメーカー間の競争がなくなり、ひいては技術的な発展が鈍くなるかもしれません。米国にとっても基幹産業が大きな打撃を受け、雇用にも影響し、大国米国の経済悪化、そして世界経済に悪影響を及ぼす可能性も否定できません。現在苦境に立たされているボーイングですが、将来の航空業界に影を落とさないよう、踏ん張ってほしいものです。
【了】
Writer: 清水次郎(航空ライター)
飛行機好きが高じて、旅客機・自衛隊機の別を問わず寄稿を続ける。
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