「ジェット機でもプロペラ機でもない」異色の飛行機、なぜ誕生? 実はドンズバかもしれない使い方とは
あまり売れずも結構すごい「ファントレイナー」の能力
同社はドイツ国防省から補助金を得て、エンジン出力150 馬力のロータリーエンジンを搭載した「ファントレイナー」原型1号機を製作。この結果をもとに出力420 馬力のアリソン250ターボシャフトエンジンを搭載した原型2号機が作られます。これは西ドイツ空軍の次期練習機候補として、ビーチクラフトT-34C「ターボメンター」、ピラタスPC-7ターボプロップ練習機と比較審査が行われました。
結果、この時の審査では「ファントレイナー」が選定されました。しかし、西ドイツ空軍では当時運用していたピアジョP.149で十分であるとされ、実際の発注は見送られてしまいます。軍以外でも、経済的にジェット機の操縦感覚が得られる練習機としてドイツの大手航空会社ルフトハンザが一時採用を検討しましたが、結果としては、ドイツ国内からの採用はありませんでした。
とはいうものの「ファントレイナー」は量産型が製造され、545馬力のアリソン250-C20Bターボシャフトエンジンを搭載した「ファントレイナー400」と、650馬力のアリソン250-C30を搭載した「ファントレイナー600」が完成しました。
そのようななか、1982年にやっとこの機に発注が入ります。タイ王国空軍が31機の「ファントレイナー400」と16機の「ファントレイナー600」を発注したのです。
タイ王国空軍が本機の採用に至った背景は、アメリカ製の練習機とともに、プロペラの回転方向が逆向きのカナダ製デハビランド・チップマンク練習機を使用していたため、異なる操縦操作による煩わしさを回避させたかったのでは、と筆者は分析しています。
ライン航空機製造によると、ファントレイナーはジェット機に酷似した操縦性を持ちながら、燃料消費は80年代の典型的なジェット練習機であるアルファジェットの10分の1。取得費はT-37ジェット練習機のおよそ5分の1であるとしています。
結局、「ファントレイナー」量産機は50機にも満たない機数しか製造されませんでしたが、ファンジェット・アビエーション社が2010年、この機の設計などを取得し、「ファンジェット600」として再び売り出そうと動いています。この機が、経済的な練習機として再び注目される可能性は十分あるのではと筆者は考えています。
【了】
Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)
航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事
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