「ここは観光地ではない」 真珠湾に浮かぶ慰霊施設「アリゾナ記念館」の凄み 今も“真下”に撃沈艦

「ここは観光地ではありません」 係員が発した重い一言

 整理券を見せ、いよいよボート乗り場へと移動します。そこで、その時間の記念館見学者全員が大きなシアタールームに集められ、係員から見学に際しての注意事項が説明されます。

「ここは観光地ではありません。慰霊施設です。遊びに来るような感覚で写真を撮影して、それをSNSに投稿したりすることはやめてください」とは、係員が最初に発した一言です。1961(昭和36)年に完成し、翌年に国定慰霊碑となったアリゾナ記念館は、真珠湾攻撃に際して「アリゾナ」と共に命を失った、約1000名もの乗員が今でも眠る場所です。頭の中では理解していたつもりでしたが、この一言にハッとさせられました。

 注意事項の説明が終わると、いよいよボートに乗り込み、アリゾナ記念館へと足を踏み入れます。館内は白一色の塗装で、中央部には海面を覗くための大きな開口部があり、そこから「アリゾナ」の姿を見ることができます。一方海面には、沈没から80年以上を経てもなお「アリゾナ」の艦内から染み出ているオイルが、油膜となって漂っています。

 そして、記念館の最深部にあるのが、亡くなった「アリゾナ」乗員の慰霊スペースです。大理石でできた壁面に、戦死した乗員全員の名前が刻まれています。また、その壁面から視線を下に移すと、小さな大理石が両脇に置かれており、そこには「USS Arizona survivors interred with their shipmates(「アリゾナ」の生存者、彼らの仲間と共に眠る)」の文字が彫られています。

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アリゾナ記念館最深部にある戦没者名簿(稲葉義泰撮影)。

 じつは、これは真珠湾攻撃時に生き残った「アリゾナ」乗員のうち、本人や遺族の希望によりその死後に遺灰が「アリゾナ」の眠る海底へと葬られた方々の碑なのです。

壁面に刻まれた1000名近い方々の名前から、「ここは観光施設ではなく、慰霊施設である」という先述した係員の言葉の意味を、改めて深く理解することができました。

【了】

【あった!】沈没した「アリゾナ」の一部 今も油膜が漂う…(写真)

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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