豪華クルーズ船の巨大化が進むと食後のコーヒーが有料に? 背景にあるビジネスモデルの変化とは
優雅なクルーズ船で食後のコーヒーが有料になる時代
このように超大型船建造にシフトしている背景には、彼らがメインマーケットにしてきたカリブ海、そして地中海での激しい過当競争からの脱却を目指したものといわれています。とりわけカリブ海では、7泊で300ドルなどという信じられない乗船料金が横行。現在でもインターネットの旅行サイトでは東カリブ海7泊で499ドルから、西カリブ海でも609ドルからといったディスカウント競争が続いており、こうした低価格がクルーズ会社の経営を圧迫していました。
そうしたなか客船を大型化する狙いは、(1)大型化により乗客1人当たりの建造と運営のコストを下げること、(2)世界最大というキャッチで注目を集め、豊富なアトラクションを用意することで若い乗客層を取り込むこと、(3)船内でお金を使ってもらう仕掛けを増やすこと、この3点に絞られます。
実際、「世界一」のキャッチは乗客をひきつけ、RCI社は昨年、前年比5.4%増の515万人を集客。そして乗船料が落ち込むなかで、船上の消費を増やすことも目指されました。
かつてのクルーズ船は「オールインクルーシブ」と称して、船内ではお酒やショッピングなどのみが有料というのが常識でした。しかし、現在のこうした超大型船では、ステーキハウスやイタリアン、寿司バーなど10数種類ものスペシャルレストランを設けて有料で運営、ほかにもショーチャージなど有料部分のサービスを増やしており、オプショナルツアーの販売やカジノなどを含めた船上消費が大きな収入源になっています。
RCI社の売上高のうち、これら船上消費は売上げの27%(2014年)に及んでおり、こうした船上売り上げの増強を図ることも大型化の理由です。
ですがこうした大型化には、弊害もみられます。船上消費の有料化を推し進めた結果、筆者の別船社での体験ですが、通常のディナーのあとの普通のコーヒーまで有料だったり、13時半のランチタイムを過ぎた途端に無料だったオレンジジュースが「有料になります」。日本でイメージする「豪華客船」というコピーとは裏腹なサービスに出会い、興ざめな体験をすることがありました。
【了】
Writer: 若勢敏美(船旅事業研究家)
1949年生まれ。業界紙を経て1980年、海事プレス社へ入社。1989年、雑誌『CRUISE』創刊に参画し、翌年から編集長。2008年、海事プレス社の社長へ就任。2012年退任。この間、取材、プライベートを含め35隻の客船に乗船して延べ55カ国を訪問。地方自治体や業界団体主催の講演会などに多数出席。
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