【いまさら聞けない鉄道技術用語】いまも進化の途上にある「交流電動機」

電車や電気機関車の心臓部といえるのが、架線などから採り入れた電気を使って動力を得るモーターです。鉄道車両のモーターとして主流となった交流電動機を詳しく解説します。

1980年代を境に変わった電車のモーター

 日本の鉄道では1980年代を境に大きく変化したことがあります。それは電車や電気機関車で使われている走行用モーター(主電動機)の主流が、直流電動機から交流電動機に代わったことです。

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時代は直流電動機から交流電動機へ。写真の京王電鉄は全車両の交流電動機化を完了している(松沼 猛撮影)。

 直流電動機と交流電動機の何が違うのかというと、当たり前の話ですが通電する電流が異なります。直流電動機は直流で動作し、交流電動機は交流で動作する電動機です。このうち交流電動機は、大きく分けて誘導電動機と同期電動機の2種類があります。

 直流は常に一定の方向に流れている電流のこと。直流電動機の回転制御は電圧を変化させて行います。鉄道では電動機の端子電圧を最大として、抵抗器や半導体素子の高速スイッチングを使って電圧を変化させて印加します。

 これに対して交流は、時間の経過とともに周期的に電圧が変化し、電流の流れる方向が反転する電流です。これをグラフ化すると基本的に正弦波の形となります。この波形を1秒間に繰り返す数が周波数です。

 交流電動機の駆動に使っているのは三相交流です。これはU相、V相、W相というみっつの波形がある交流で、位相は120度ずつずれている均等三相交流が一般的です。また、交流電動機の回転数制御は基本的に周波数を変化させて行います。

 ではなぜ、直流電動機が交流電動機に取って代わられたのか。それは直流電動機が持っていた欠点を交流電動機が補うことができたからです。

直流電動機の欠点とは

 直流電動機が長年使われてきた理由のひとつは、電圧の変化だけで回転数の制御ができるため、機械的でアナログな制御装置でも使えるという扱いやすさにありました。また、勾配や線路条件などに伴う必要引張力の変化や、架線電圧の変動に対して速度とトルクの優れた追従性も直流電動機のメリットのひとつでした。

 直流電動機は界磁と呼ばれる電磁石を配置した固定子の内側に、電機子コイルを取り付けた回転子が配置された構造となっていて、通電すると固定子内部に磁界が発生すると同時に、電機子コイルに電流が流れます。そして磁界の方向と電流の方向に基づき「フレミングの左手の法則」に従った方向に力が発生し、回転子を回します。

 この時、回転する電機子コイルに通電させる必要があるため、回転子には整流子、枠体(フレーム)にはブラシを設置して接触通電させます。なお整流子は回転角度に応じて電流の流れる方向を切り替えるスイッチの役目を果たします。この電動機を直流整流子電動機ともいいます。

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103系のMT55形直流主電動機のカットモデル。回転子の電機子コイルに通電するための整流子やブラシが保守面での課題となっていた(松沼 猛撮影)。

 この整流子とブラシ、電機子コイルが存在するため、直流整流子電動機の構造は複雑となり、大きく重くなります。特に整流子とブラシが接触摩耗するため、メンテナンスに手間とコストがかかっていました。

最初に登場したのは誘導電動機

 そこで国鉄は1971(昭和46)年、「車両用主電動機の無整流子の研究」という技術課題を認め、各メーカーが無整流子電動機の研究開発を行いました。その結果、当時の技術で無整流子化が可能だった交流誘導電動機の開発が進められました。

 ここで課題となったのは交流電動機の回転数制御の方法です。日本の電化方式で圧倒的多数派を占める直流を交流に変換すると同時に周波数を変化させて交流電動機の回転数を制御するのは容易ではありません。結局、半導体技術の進化によってVVVFインバーター制御が実用化されることで、交流誘導電動機の実用化も果たされました。

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Writer: 松沼 猛(鉄道ジャーナリスト)

1968年生まれのいわゆるブルートレイン、L特急ブーム世代。車両の形態分類と撮影、そして廃線跡が好きで全国各地を駆け巡っている。技術系から子ども向けまでさまざまな鉄道誌の編集長を経験。また、鉄道専門誌やウェブにも多数寄稿している。

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