【空から撮った鉄道】懐かしき岳南鉄道 貨物列車廃止前後の記録

 かつて貨物列車は、国鉄私鉄問わず鉄道の主役でした。JRとなり平成となり、貨物列車は縮小され、私鉄の貨物列車も廃止されていきました。そのひとつ、2012(平成24)年に貨物運行廃止となった岳南鉄道(現・岳南電車)を紹介します。

きっかけは、なんとなく見てみようという好奇心から

 富士の秀峰がよく望める静岡県富士市。その駿河湾沿いには東海道本線吉原駅があり、岳南電車という吉原~岳南江尾間9.2kmの短い私鉄が分岐しています。岳南電車は現在旅客専用ですが、つい最近まで社名を岳南鉄道といい、貨物列車を運行していました。

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車体だけとなった、貨車や元・小田急の車両たちの脇を行く元・京王電鉄3000系の7000形。左側が比奈駅となる(2010年9月29日、吉永陽一撮影)。

 富士市は昔より製紙産業が盛んで、あちらこちらに製紙工場があります。この工場群を結びパルプ輸送を目的に開業したのが岳南鉄道で、1949(昭和24)年の開通から製紙産業を支えてきました。しかし2012(平成24)年に貨物輸送を廃止。63年間続いてきたパルプ輸送に幕を閉じ、翌年には鉄道事業を分社化し、社名も岳南電車へと変更したのです。

 今となっては過去の光景となった富士市の私鉄貨物列車ですが、ちょっと時計の針を戻して、2010(平成22)年~2012年の頃をお話しします。呼称も岳南鉄道となります。

 2010年、静岡空撮の帰路で、岳南鉄道へ寄りました。私は私鉄貨物や専用線といった一癖ある鉄道と情景が大好きなので、岳南鉄道はぴったりな存在でした。なので、なんとなく見てみようという好奇心で立ち寄ったのです。飛行機でフラッと立ち寄った岳南鉄道は、まぁなんというか、コンパクトに纏まったNゲージレイアウトのようで、大変興奮しました(笑)。

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比奈駅の西側には製紙工場があり、工場の引込線にはJR貨物のワム80000形が留置されている(2010年11月18日、吉永陽一撮影)。

 JRの駅から分岐する小私鉄の小さなホーム。工場をすり抜ける線路。旅客電車は旧大手私鉄車両を魔改造したような両運転台車両。そして、あちこちの工場引込線や側線にたむろする「ワムハチ」(ワム80000形有蓋貨車)。個性的なフォルムの小さな電気機関車が入れ替えする駅。自分の好きな要素が散りばめられている! と、シャッターを切りながら思ったものです。

 国鉄時代、こういった私鉄は全国あちこちにありました。貨物輸送の縮小と再編とともに消えていくなか、岳南鉄道の存在は貴重です。それが東京から飛行してわずか1時間以内にある。これは記録していきたい。幸い、静岡空撮は毎年あるので、追加の撮影で岳南鉄道を狙うことは容易でした。

 帰りがけに立ち寄るので、時間は決まって昼前です。現地ではたいてい比奈駅で入れ替え作業をしており、構内側線には元・松本電鉄のED40形や元・上田電鉄のED50形が「ワムハチ」や「コキ」の貨車を連結しています。この駅の入換作業では、機関車が貨車を突き放して貨車が惰性で動き、違う貨車に連結するという「突放作業」が行われています。入換作業をずっと眺めていたいところですが、こちらもそんなに時間は掛けられないため、突放シーンは見られず、後ろ髪を引かれる思いで帰投します。

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Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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