大洗~苫小牧間のフェリー「さんふらわあ」を使った格安ツアーが登場。しかし背景には、北海道航路を運航するフェリー会社ならではの悩みがありました。「冬の北海道」、そんなに魅力がないのでしょうか。実際にフェリーで行ってみました。
北海道航路「さんふらわあ」担当者の決断
「首都圏~北海道間の往復が、1万4900円からホテル1泊朝食付き」という激安ツアー「マイデザイン北海道」が、期間限定で「さんふらわあトラベル」から発売されています。
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大洗港で出航を待つ「さんふらわあ さっぽろ」(2019年12月、恵 知仁撮影)。
大洗港(茨城県)~苫小牧港(北海道)間で運航されている商船三井フェリーの「さんふらわあ」。それを使うプランで、大洗出発フェリーでの往復と、札幌、旭川、苫小牧、函館のホテルいずれか1泊朝食付きがセットです(復路乗船日は7日まで延長可能)。
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冬の北海道で見つけた昔の山手線(2019年12月、恵 知仁撮影)。
大洗~苫小牧航路は、通常の片道運賃が1万740円からなので、ずいぶん値下げされています。乗用車を載せて行く場合も、通常は往復で5万8800円からですが、このプランだとホテル1泊朝食付きで3万8900円から(車体長5m未満)。だいぶ敷居が下がっています。
「冬の北海道、お客様が少ないんです……。これならば、これならば来ていただけるのではと、かなり頑張りました……!」
商船三井フェリーの担当者は、力を込めて話します。冬の北海道は「寒い」「スタッドレスタイヤが必要」といった理由のせいか、どうしても客足が落ちるそうです。
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今回は実際に、スバル「フォレスター」を「さんふらわあ」に載せて北海道へ。詳しくはのちほど(2019年12月、恵 知仁撮影)。
確かにそれもそうだとは思いますが、私(恵 知仁:鉄道ライター)は「北海道の冬」自体が「旅の醍醐味(だいごみ)」だと、小学生のころから思っています。
私は「2月の北海道」を選んで「完乗」しました
小学生のころから愛読していた、『時刻表2万キロ』などで知られる紀行作家 故宮脇俊三さんの著作。そのなかで「異質なものに触れるのが『旅』ならば、『冬の北海道』はおすすめ」とされていたからです。もっとも小学生のころは、知識としてあっただけですけども。
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冬の北海道で出会ったラッセル車DE15(2007年2月、恵 知仁撮影)。
大人になって「北海道の冬」を体験したとき、その知識は身をもって知った事実になりました。
テレビで天気予報を見れば、当たり前のように気温はすべてマイナス。風で浮き上がり流れていく、軽く乾いた雪。肌を刺す凍てつく空気と、その透明感、きらめくダイヤモンドダスト。でも屋内に入ると暖かく、ラーメンも鍋も、温かい食べ物が夏より美味しい――。
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終点の稚内では顔がすっかり変わっていたキハ54形(2007年2月、恵 知仁撮影)。
ちなみに私はJR全線の完乗を、最北端の駅「稚内」で達成したのですが、季節はもちろん、「旅」感が最も高まる真冬の2月を選択。旭川から乗ったキハ54形ディーゼルカーは雪を巻き上げながら走り続け、終着駅の稚内では、車体に付着した雪で別人のような顔になっていました。
「すいている」って良くない? 閑散期の北海道航路「さんふらわあ」
2019年12月、実際にこの商船三井フェリー「さんふらわあ」で冬の北海道へ行ってきたのですが、良かったですよ。身も蓋もないことを言ってしまえば、フェリーも北海道も、すいていて。
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席がよりどりみどりだった「さんふらわあ さっぽろ」パブリックスペース(2019年12月、恵 知仁撮影)。
広く、パブリックスペースも多いフェリー船内で、この人口密度の低さ。大型フェリーでの船旅は「のんびりゆったり」が魅力のひとつですが、大海原を眺めながら入れる大浴場もレストランも人が少なかったです(もちろん、観光シーズンの夏は大人気だそうですが)。
「すいている」だけで旅はずいぶんぜいたくになりますし、何より楽ですよね……。
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陸地からそう遠くないところを航行するため、携帯の電波も結構通じた。
あと、船の現在地、自分の船内位置などにもよるのですが、大部分の区間で、陸地から携帯の電波が届いていました(ドコモを使用)。船内のイスがあるパブリックスペースにはコンセントも用意されており、スマホをいじりながらマッタリする人、携帯ゲーム機で遊ぶ人の姿も。
……私は仕事(取材)での乗船なのでパソコンを開いてましたが、「洋上の密室」、はかどりました
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北海道を目指し、大洗港から出航した「さんふらわあ さっぽろ」(2019年12月、恵 知仁撮影)。
なお、この激安プラン「マイデザイン北海道」では、往路の乗船が大洗発1時45分の深夜便だと最短1泊3日、19時45分発の夕方便だと最短1泊4日ですが、夕方便で行き飛行機で帰る2泊3日プランもWillerから発売されています。「この値段で行けるんだったら、週末だけちょっと北海道で過ごそう」も可能です。
●「マイデザイン北海道」往復1泊朝食付き1万4900円から(さんふらわあトラベル)
●商船三井フェリーで北海道に旅行に行こう!(Willer)
フェリー「さんふらわあ」での北海道旅行 こんな感じです
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今回はAWD(4WD)のスバル「フォレスター」と一緒に北海道へ。タイヤはもちろんスタッドレス装着(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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大洗港は、東京駅八重洲南口とを結ぶ直通バスもある。片道2280円(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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「さんふらわあ さっぽろ」の航海速力は24ノット(約44km/h)。苫小牧港までの所要時間は17時間45分(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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往路で利用した「スーペリアオーシャンビュー(和洋室)」。定員は4人なのでグループでの旅にも向く。「マイデザイン北海道」では片道プラス8800円(大人1人)で利用可能(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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「スーペリアオーシャンビュー(和洋室)」はシャワー付き(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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レストランには、北海道限定「サッポロ クラシック」のビールサーバー。「北海道に行くんだ」という気分を盛り上げてくれる(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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太平洋を眺めながら食べられるレストランは、出航前から営業。夕・朝・昼食が提供される(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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乗船した日の夕食(このほかのメニューもあり)。手前が「ポークソテーのおろしソースがけ」、奥は「ハンバーグのきのこ入りデミソース」。それらメインのほか、サラダ・デザートなどはバイキング形式(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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夜が明けると、部屋の窓には大海原が広がっていた(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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展望デッキへ出てみる。冷たい空気が、確実に北へ向かっていることを物語っていた(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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時刻は朝7時すぎ。現在は青森県に近い岩手県沖(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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「スーペリアオーシャンビュー(和洋室)」に備えられているアメニティ。このタオルを持って……(2019年12月、恵 知仁撮影)。
展望大浴場へ。朝日に照らされた果てしない水平線を眺めながらの入浴は、格別だった。タオルは船内売店でも販売(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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朝食はバイキング形式。北海道で主に漁獲されるという「氷下魚(コマイ)」もある(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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「コンフォート」の客室。お手頃な価格でプライバシーを確保できる。各席にコンセントとテレビも。「マイデザイン北海道」では片道プラス2200円(大人1人)で利用可能(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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もっともお手頃な「ツーリスト」の客室。隣の席とはカーテンで仕切る。全席にコンセントを用意。「マイデザイン北海道」では基本料金で利用可能(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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船内のパブリックスペースには、コンセントが使える席も用意されている(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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船内動画サービス「SSQ」では、持込のスマホやタブレットなどでビデオプログラム等が楽しめる(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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もうすぐ北海道。昼はレストランでも軽食が提供されるが、ここは船内売店で買ったカップラーメンに給湯室でお湯を注ぎ……(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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太平洋を調味料にシーフードヌードルを食べる(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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定刻の13時30分、北海道の苫小牧港へ到着。雪をかぶった樽前山(右奥)が出迎えてくれた(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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帰りの大洗行き夕方便は、苫小牧18時45分発。乗船手続きを済ませ、クルマのダッシュボードに「大洗行き」と掲げる。船は「さんふらわあ さっぽろ」の姉妹船である「さんふらわあ ふらの」(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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帰路で利用したのは「プレミアム(洋室)」。1室だけある「スイート」に次ぐクラス(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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「プレミアム(洋室)」はバストイレ付き。これはもうホテルだ(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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「プレミアム(洋室)」には専用のバルコニーまである。起きてカーテンをあければ、そこは朝焼けの海(2019年12月、恵 知仁撮影)。
で、「冬の北海道」楽しんできました
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スバル「フォレスター」で、高倉 健主演の映画『鉄道員』でロケ地になった根室本線の幾寅駅(北海道南富良野町)へ。やはり夏より冬のほうが、『鉄道員』の現場らしくてよい。駅舎に掲げられた駅名も映画の「幌舞駅」(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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幾寅駅には、映画に使用したキハ40形ディーゼルカー、衣装、資料などが展示されている。写真のキハ40形は、富士重工業(現スバル)が製造した車両(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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キタキツネの足跡だろうか。こういう出会いも「冬の北海道」ならでは(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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幾寅駅から国道38号を東へ進み、旧石狩国と旧十勝国を分ける狩勝峠へ。空が広い(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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このときはあいにくの天気だったが、晴れていれば十勝平野が眼下に一望できる狩勝峠。かつてこの峠を鉄道の根室本線も通っており、その眺めは「日本三大車窓」に数えられていた。根室本線は現在、長いトンネルでこの峠を越えている(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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狩勝峠を新得駅側に下りていくと、昔の山手線のようなものがあった。旧根室本線の新内駅跡にある「旧狩勝線ミュージアム」だ(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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旧根室本線のルートは、「旧狩勝線フットパス」として散策できるようになっている。冬季は難しいが(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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新内駅跡には、9600形蒸気機関車と20系寝台車が保存されている。かつては「SLホテル」として使われていた。ナロネ22形の保存車はここだけ(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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1966年に根室本線の新線(現在のルート)が開通するまで、落合駅からは狩勝信号場、新内駅、新得駅という順番だった(2019年12月、恵 知仁撮影)。
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狩勝峠から降りたところにある街、新得はソバが有名。温かい味わいが、それまで氷点下の世界にいた体に染みわたる(2019年12月、恵 知仁撮影)。
●「マイデザイン北海道」往復1泊朝食付き1万4900円から(さんふらわあトラベル)
●商船三井フェリーで北海道に旅行に行こう!(Willer)
【了】
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