海底から蘇った老艦「わかば」の離島救出大作戦 水不足のSOSに「樽」大量輸送
小島からのSOS「ノミミズオクレ」
警備艦「わかば」の就役から8か月後の1957(昭和32)年1月、伊豆諸島の各地から東京都庁に「ノミミズオクレ」のSOSが続々と入ります。当時の離島は、水道が整備されているところは稀で、地下水に恵まれない島は雨水に頼っていました。そのような島々が、異常ともいえる晴天続きで水不足に陥ったのです。とくに「利島(としま)」の状況が深刻でした。
利島は東京から南に約140km、大島の南に位置する伊豆諸島で最も小さな島です。冬には椿が咲き誇る自然豊かな利島には1957(昭和32)年当時、83世帯363人の住民が暮らしていました。
この小さな島の貯水槽が雨不足で枯れ、1月20日ころには残り10日分もない危機的状況になったのです。当時の利島には定期航路がなかったこともあり、海上自衛隊による真水の緊急輸送が決定しました。
輸送艇などでなく「わかば」が選ばれた理由は、冬の荒れた海にも耐えられ、なおかつ大型の非武装艦であるため輸送力もそこそこあったからではないか、と筆者(リタイ屋の梅:メカミリイラストレーター)は推測します。
1957(昭和32)年1月25日夕方に横須賀を出港した「わかば」は、まず千葉県の館山港に向かいます。甲板上には住民一週間分の真水が入った日本酒用の“四斗樽”(72リットル)170個が積まれました。
なぜ「樽」で運んだのかというと、当時の利島は港が未整備で大型艦が接岸できないため、沖合で島の小型船に樽を渡すしか方法がなかったからです。
翌1月26日、波の静かな早朝を狙って未明に館山を出港した「わかば」は、午前6時過ぎに利島の沖合に到着。海岸に集まった住民約100人は「わかば」を見つけるや歓声をあげて大喜びしました。
穏やかな海に錨をおろした「わかば」に、ハシケ(無動力の運荷船)を牽いた漁船が島から近づきます。いよいよ水の引き渡しの始まりです。
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