「旅客機の席に落下傘つければ安心」説はなぜ実現できず? 実はむしろ安全に逆効果!

乗客によるパラシュート降下、もししたらどうなるの?

 ジェット旅客機が巡航する約1万mの高度では、人間は酸素の供給なしで活動できません。そのため機体にトラブルが生じた場合、酸素マスクが降り、人間か活動可能な高度まで降りることになります。つまり落下傘の準備は、降下がある程度完了しないとできないということです。

 次に問題となるのが、旅客が落下傘の装備を手早く、うまく背負えるかという事です。落下傘はリュックのように肩に掛けるだけでは、すぽっと抜けてしまいます。通常、足の付け根に付ける人の重さを支える重要な帯があり、この装着には、慣れている人でも数分を要します。

 過去にはジェット旅客機が非常事態で着陸した際、地上で乗客がドアに殺到した結果、被害が増したという例もあります。落下傘を装備すれば通路も狭くなるため、CA(客室乗務員)による適切な誘導が不可欠で、それができたとしても、地上で手ぶらで脱出するよりは時間がかかります。

 つまり一分一秒を争う状況では、落下傘は逆に混乱を招きかねないのです。

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ロボットが出るスターフライヤーの機内安全ビデオ。ビデオの内容に工夫を凝らす航空会社も多い(乗りものニュース編集部撮影)。

 落下傘での降下に関して、国の許可(資格)がいることは触れたとおりですが、素人である乗客が、落下傘を装備し、ドアから飛び出る際に大きな危険が伴います。また機種によっては、上空でそもそもドアを開けることができない機種もあり、旅客機自体の大きな改修や、もろもろの当局への申請が必須です。

 またよくあるスカイダイビングの映像でもわかるとおり、落下傘を開くと、急に空気抵抗で減速することになります。このとき、近くにいる人にぶつかったり、自分の足や首をひもに巻きつかれてしまう恐れもあります。旅客機からであれば、数百人規模が一気に落下傘で降りるということであり、無事に全員が着地するのはまさに至難の技です。この際、資格が必要というカタイことは抜きにしても、乗客全員がかなりの訓練を積んでいることが必須でしょう。

 命を預かる操縦士はさまざまなトラブルに備えて日頃訓練をしていますし、彼らの席にも落下傘はありません。整備士をはじめ航空会社や管制官の方々なども、それぞれの分野における安全のプロです。私たち旅客は、しっかり安全ビデオと安全のしおりを見たら、あとはプロの方に身を委ね、目的地まで行くのが一番です。旅客機は事故率が最も少ない、もっとも安全な乗りものなのですから。

【了】

1978年、「日航ジャンボに、寝室を作りました。」で生まれた「スカイスリーパー」

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