戦車プラモのスケールでなぜ「建機・農機」? 変わり種「1/35振動ローラ車」が物語る歴史
飛行機のプラモデルで知られる模型メーカー、ハセガワの一風変わった商品が、トラクターやコンバインなどの建機・農機シリーズです。しかもそのスケールは、昔から戦車模型の定番である1/35。どういうことなのでしょうか。
ローラー車に付属する女性オペレーターに注目!
株式会社ハセガワは1/72や1/48スケールの飛行機プラモデルで有名な模型メーカーですが、同社は近年、1/35スケールでパワーショベルやホイールローダ、コンバインなどの建機・農機のプラモデルを積極的に開発しています。1/35といえば、戦車(AFV)模型の縮尺として世界中で広まっていますが、ハセガワは1/35AFVのプラモデルは発売していません。建機・農機だけを、なぜか1/35スケールで発売しているのです。
これにはなにか理由があるはず。建機シリーズのなかでもとりわけ珍しい、舗装を均すローラー車両のプラモデル「日立建機 コンバインド振動ローラ ZC50C-5」に焦点を当て、中身をチェックしてみます。
パーツは4色のプラスチックで成型されており、色を塗らなくてもカラフルに仕上がります。車体の主な部分はオレンジ、後部タイヤや運転席などはブラックグレー、前輪ローラーはライトグレー、車体の前後につく細かなライト類はクリアーのプラスチックで成型されています。
このモデルの特徴のひとつが、運転席に座る女性オペレーターで、塗装のしやすさを考慮してライトグレーで成型されています。この女性オペレーターの原型を作ったのは、リアルな女性フィギュアを得意とする原型師、辻村聡志さん。おさげ髪やさり気ない手足のポーズが、無機的なローラー車を生き生きとした“働く車”に見せています。
実はこのフィギュアに、「なぜハセガワが1/35で重機・建機のプラモデルを発売したか」という疑問を解くカギがあるのです。
「1/35」に見るプラモデルの歴史
1/35スケールのフィギュアといえば、まず思い起こされるのは、模型メーカー・タミヤが長年にわたって展開している「ミリタリーミニチュア・シリーズ」でしょう。今でこそ、AFV模型の縮尺は1/35が世界中で当たり前となっていますが、タミヤが「ミリタリーミニチュア・シリーズ」第一弾の「ドイツ戦車兵セット」を発売した1968(昭和43)年当時、AFV(おもに戦車)のプラモデルはいろいろな縮尺が混在していました。
その頃、日本ホビーというメーカーは1/20スケールで「M-41偵察戦車」、今井科学は1/24スケールの「M-5 トラクター」などを発売していました。当のタミヤも、1/21などという中途半端なスケールで「米軍155mm自走砲M40ビッグショット」を発売。それらは全てモーターライズ、つまりモーター動力を内蔵した“走らせて楽しむ”プラモデルばかりでした。
そんな中で、どうして1/35がAFVの縮尺として決定的になったのかというと、タミヤが1962(昭和37)年に発売し、大ヒットした「パンサータンク」がたまたま1/35スケールだったからです。もちろん、このプラモデルも電動走行する製品でした。1/35という縮尺は、モーターと電池を内蔵するために適切なサイズだったために採用されたといわれています。
その「パンサータンク」の大ヒットを受けて、タミヤは1/35スケールで数々の電動戦車を発売しつづけ、そのうち砲塔から上半身を乗り出した兵士が付属するようになります。タミヤはその延長線上で、後年には“動かない戦車”もラインナップに加えていく1/35「ミリタリーミニチュア・シリーズ」を展開し始めたわけです。
1969(昭和44)年に発売された「ミリタリーミニチュア・シリーズ」第二弾は、戦車の周辺に配置するための「ドイツ歩兵セット」でした。銃をかついで歩いている兵士や、双眼鏡で戦場を視察している兵士たちのフィギュアです。ここまで来ると、もう戦車を電動走行させる意味はなくなりました。
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