なぜ特異スタイルに? ANAも導入のロッキード「トライスター」 お尻に“くねったエンジン”の3発機

実はいろいろあった「トライスター」開発経緯

 当初ロッキード社が検討していた新型旅客機案は、エンジンを2基搭載した形状のものでしたが、この当時はまだエンジン2基のジェット旅客機の運航に関して、洋上飛行に制限がありました。そこで長距離飛行でも制限がかからない、3発エンジン機として開発が進められたとされています。

 そして「トライスター」には、エンジンそれ自体にも特徴があります。搭載されているものは、この機のために開発されたイギリスのロールス・ロイス社製「RB-211」ターボ・ファン・エンジンです。実はこのエンジンの開発が頓挫しかかり、結果的に「トライスター」の完成に暗雲が立ち込めことがありましたが、最終的にはイギリスが国家の命運をかけて実用化にこぎつけています。

 ちなみに、RB-211は実用化してからは、経済的に優れたエンジンとの評価を得ることができ、のちにボーイング747をはじめとする他社機にも使用されています。

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JALのダグラスDC-10。「トライスター」のライバル機だった(画像:JAL)。

 冒頭のとおり、わが国では、ANAが1974年より「トライスター」を1974年より採用しました。これは、JALがDC-10を採用したことも関係があったのかもしれません。ANAでは、同型機就航にあわせ、5代目のCA(客室乗務員)制服を導入。この制服は「トライスター・ルック」と呼ばれました。

 世界的に見ると製造機数250機とヒット作とはいえず、ロッキード社が最後に手掛けた旅客機となってしまった「トライスター」ですが、ANAでは、躍進を支えるステップのひとつになりました。

 ANAの「トライスター」はおもに国内幹線で使用されたほか、先述の通りANA念願の国際線定期便であるグアム線も担当。同社の整備士の技術の更なる向上などに関しても大きな役割を果たしました。国内の航空ファンのあいだでは、「トライスター」もしくは、「エル・テン」と呼ばれ親しまれることが多く、いまでも根強い人気がある機体と記憶しています。

 ちなみに、「トライスター」の名称は、ロッキードが社員から募集して名付けられたそうです。同社では、空の事象や宇宙の名称を機体に付けることが多く、この機にそれにのっとったものとなりました。

【了】

【下のものは一体…】超ユニークな転身を遂げた「トライスター」の姿

Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)

成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。

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