「雪風」しのぐ“幸運艦”? イギリス海軍「ラッキー・ジャーヴィス」ケタ違いのツキまくりっぷりを見よ!

史上初の空対艦ミサイル喰らっても死傷者ゼロ!

 そして、このような激闘を潜り抜け、大戦を生き延びた結果、「ジャーヴィス」は13個もの戦闘参加名誉賞(Battle honour)を授与しています。この数は、第2次大戦のイギリス海軍における最殊勲艦で、14の戦闘参加名誉章を受けた戦艦「ウォースパイト」に次ぐものとのこと。

 しかも驚嘆すべきは、苛烈な戦いに明け暮れたにもかかわらず、乗組員にひとりの戦死者も出さなかったことでしょう。

 こうした戦績があったからこそ、いつしか同艦は「ラッキー・ジャーヴィス」、つまり「幸運のジャーヴィス」という愛称で呼ばれるようになりました。その象徴的な出来事として挙げられるのが、イタリアのアンツィオにおける1944年1月23日の戦いです。

 この日、「ジャーヴィス」は世界初の空対艦誘導ミサイルであるヘンシェルHs 293の直撃を受け、艦首を完全に吹き飛ばされてしまいます。ところが、これほどの大損傷にもかかわらず生還。しかも戦死者どころか負傷者も皆無で、乗組員は全員が無傷でした。

Large 230602 jervis 02

拡大画像

1942年4月、地中海戦域で魚雷を発射する駆逐艦「ジャーヴィス」(画像:イギリス帝国戦争博物館)。

 そんな「ジャーヴィス」でしたが、就役直後から大戦に投入され、ときには大損傷を蒙りつつも苛烈な戦火を幾度も潜り抜けてきたせいで満身創痍。そのため戦後も現役であり続けられるだけの「堅牢さ」はない状況でした。

 結局、1947年に廃棄が決まり、通常爆発物の被爆実験に供された後、1949年から翌1950年にかけてスクラップにされています。

 しかし、ここまで幸運だった艦は他にはないため、イギリス海軍はもちろん国民のあいだでも、いまなお伝統ある「ロイヤルネイビー」の逸話として語り継がれています。

 まさしく「ホワイトエンサイン」(イギリス軍艦旗にちなむイギリス海軍の通称)を代表する「ラッキー・ジャーヴィス」の栄光物語。その艦名を受け継ぐ新型艦が登場する日は来るのでしょうか。

【了】

【機雷のすぐそばに捕虜が】駆逐艦「ジャーヴィス」の艦上でくつろぐドイツ兵たち(写真)

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。