駅を「900m移設します」異例の"大移動"背景にある歴史 「新駅開業」にしない理由があった
既存の駅が900mも離れてしまう――もはや“別の駅”といえるほどの大移設が愛知県で行われます。しかし“新駅”とはされず、あくまで既存駅の移設。そうするには理由がありました。
ほぼ1駅分の距離を移動
愛知県知立市で、名鉄の知立駅周辺の高架化事業がおこなわれています。その工事の一環で、知立駅の隣にある三河線の「三河知立駅」が2024年3月16日に移設開業します。
現在の位置からは、なんと900mも離れた場所になります。もはや「別の駅」レベルの場所変更ですが、なぜこんな「大移動」が行われるのでしょうか。
これだけ大きく場所が変わるのはレアケースなのか、事業主体の知立市は、市のWebサイトで1ページを使って詳細な説明をしています。移設の背景には、知立駅の「激動の歴史」が関係しているのです。
知立駅で交わる名古屋本線と三河線は、もともと別会社でした。最初は三河線が「三河鉄道」として、1915(大正4)年に知立駅まで開業。この時の知立駅こそ、現在の三河知立駅です。
そのあと1923(大正12)に名古屋本線が当時の「愛知電気鉄道」として延伸してきて、現在の立体交差のあたりに「新知立駅」を開業し、乗り換えできるようになります。
戦時中の1941(昭和16)年に、名古屋鉄道と三河鉄道が合併します。乗り換えを便利にするため、1959(昭和34)年に現在の位置へ知立駅が設置され、三河線はそこへ「スイッチバックでわざわざ立ち寄る」ような、現在の線形に作り変えられました。このとき名古屋本線のほうにあった旧駅は東知立駅となった後ほどなく廃止されますが、三河線の新知立駅は「三河知立駅」として残されることになりました。
しかしやはりその歴史的経緯から、三河知立駅は知立駅に近く、いっぽうで隣の三河八橋駅までは3.1kmも駅が無かったことから、アンバランスだという課題がありました。
ただ、もし「新駅の設置」をするとなると国の認可が必要となり、認められるために数々の調査や手続きが必要となります。しかし既存駅の移転であれば、そのハードルは下がってきます。
また、三河知立駅の1日の乗降客はわずか800人以下。知立駅の徒歩15分圏内にほぼ丸被りの状況であるため、今の駅を無くして困る人より、新しい場所で便利になる人のほうが多いと判断されたのです。そこで高架化にあわせて「移設」されるという方針になったのです。
新たな三河知立駅の場所は、国道1号で分断された東側地区に位置することとなり、知立駅まで国道の信号待ちに悩まされていた住民にとっては、名鉄三河線がありがたい存在となります。
【了】
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