ついに建造開始「飛鳥III」どんなフネに? 日本初のLNG燃料クルーズ船 カギを握る受入れ環境整備
拠点は「横浜」 受入れ環境を整える必要
「飛鳥III」の大きな特徴としては、やはり日本船籍の外航客船としては初めてLNG燃料に対応したエンジンを搭載するという点が挙げられます。
LNGは従来の重油焚きに比べて約30~40%のCO2削減が見込めることから、世界的に船舶への採用が広まっており、日本郵船グループも自動車船を中心にLNG燃料化を進めています。「飛鳥III」では接岸中のアイドリングを止めてCO2排出をさらに減らすため、陸上電力受電装置も備える予定です。
LNG燃料バンカリング(供給)の拠点は船籍港である横浜港を予定。「飛鳥III」自体は大さん橋に接岸できますが、陸上電力供給設備は横浜市の2023年度予算で本牧ふ頭への整備が決まったばかりなうえ、バンカリング方式は未定ということで、不確定な部分もあります。
現時点で日本唯一のLNG燃料フェリーである「さんふらわあ くれない/むらさき」は、最大4台のタンクローリーと船を同時につないでLNG燃料が供給されていますが、これは大阪~別府という内航のフェリー航路だからこそ実現できるやり方で、大量の燃料が必要な外航客船で実施するのは非効率的です。さらに別府港にはタンクローリーの駐車が可能な広い作業スペースが用意されていますが、周囲に商業施設が迫る大さん橋や新港ふ頭の広さでは難しいでしょう。船から船へ直接燃料を供給するシップツーシップ方式ならば、荷役や乗下船といった陸上での作業を邪魔せず大量に燃料を船へ送り込むことができるため、日本各地でバンカリング船の整備に向けた準備が進められています。
郵船クルーズは2021年5月に横浜市や日本郵船、東京湾でLNG燃料の供給を担うLNGバンカリング船の就航を目指す「エコバンカーシッピング」と4社で「LNG燃料クルーズ船の受け入れに関する覚書」を結んでいることから、シップツーシップ方式での燃料補給も期待できるものの、その場所はどこになるのかなどは不透明と言わざるを得ません。そもそも東京湾のLNGバンカリング船「エコバンカー東京ベイ」は2021年中に竣工する予定でしたが、艤装工事の遅れもあって2023年10月現在、まだ就航していないのが現状です。
このほか「飛鳥III」では、投錨なしで船の位置の制御を可能にするDPS(ダイナミック・ポジショニング・システム)を採用。エンジンやエレベーターに関しては、衛星通信システムを通じて常時監視可能なシステムを導入する予定です。
歴代の「飛鳥」と違いドイツ生まれの日本客船となる「飛鳥III」。同船が就航すると郵船クルーズは「飛鳥II」と合わせて総トン数10万超、乗客定員約1600人と日本の外航クルーズ客船運航会社としては最大規模となります。2年後には横浜港で二引のファンネルマークを持つ2隻の客船が、大先輩である「氷川丸」と並ぶ光景を見ることができるでしょう。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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