牛が横断!?「虚無の平原を走るLRT」のギャップがすごい 秘境すぎるのに「割と乗客がいる」ワケ
何もないに道路と線路と駅だけがあり、牛の群れがのんびりと横断……そこを最新鋭の低床LRT車両が駆け抜けていくという激しいギャップを見せる鉄道があります。
末端区間は秘境感すごい
白地にオレンジの帯をまとった4両編成のLRT車両が、雑踏の濃縮された街角を抜け、中層階のアパートメントが立ち並ぶ市街地から丘陵を駆け上がっていきます。
すると車窓は一変し、視界からは街並みが消えて、広大な荒地と畑だけになります。周囲に何もない「秘境停留場」を発車し、ただただ道路と線路だけが先へ続く中、農夫に連れられて、牛の群れがのんびりと横断。最新鋭の低床車両とのギャップに、思わず腰を抜かしそうになります。
荒涼とした風景を行くのは、イスタンブールとアンカラの中間に位置する都市・エスキシェヒルのLRT「エストラム」です。
エストラムは2004年に中心市街地で最初の区間が開業。計16kmが全通した後は第2期・第3期プロジェクトが推進されました。先述の路線は、その第3期に計画され、2021年に開業したばかりの「12系統 75ユル線」です。
中心街から東へ東へ伸びる路線のひとつですが、この系統はエスキシェヒル市の飛び地的なニュータウンへ向かうのが特徴。終点の「75ユル駅」はエストラムの最東端に位置します。
そのニュータウンへ到達するまでに「未開拓ゾーン」を通過することとなります。丘陵で視界が遮られることもあり、工業団地と未開発の平原がモザイク状に車窓にあらわれ、乗っていて飽きることがありません。15分ほどでニュータウンに入ると、旧市街の喧騒とは違う閑静な高級住宅地になります。
沿線はそこそこの人口を抱えているほか、さらに政府がトラムへの移行を促進していることもあり、終点の75ユル駅では、平日の昼間にも関わらず折り返しの列車に老若男女20人ほどが乗車してきました。
いまや総延長55kmとなり、末端地域まできめ細やかに張り巡らされるエスキシェヒルのトラム。実は同市はトルコでも真っ先に「交通マスタープラン」で交通計画にトラムの建設を盛り込んだ都市でした。その目的は「急増する自家用車の流入を食い止め、中心市街地を歩行者や自転車に優しい空間にすること」。公共交通機関の拡張にあたって選ばれたのが、バスに比べ環境に優しい低床電車でした。
市街地区間へ戻ってくると、4両のトラムはいよいよすし詰め状態に。円安を考慮しても1乗車40~80円で乗れるエストラムは、ダイナミックなアナトリアの地形とうまく調和し、60万人の市民を支えています。
【了】
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