北陸新幹線「延伸」はいばらの道? 立ちはだかる「着工5条件」 “建設費”以外もある障壁とは
白黒ついてない「並行在来線」問題
(4)営業主体としてのJRの同意
整備新幹線は国(鉄道・運輸機構)が整備主体、JRが営業主体となる「上下分離方式」で整備されます。国・自治体は単独で新幹線を経営できないので、JRに引き受けてもらわなければ事業は成立しません。そこで着工にあたっては、JRが整備区間の営業主体となることを同意する必要があります。これも国鉄時代の反省を踏まえ、JRが必要としない路線を押し付けないための条件です。
北陸新幹線延伸区間の営業主体となるJR西日本は、2010年代初めまでは米原ルートを支持していましたが、現在は小浜・京都ルートを前提にしています。米原ルートに転換した場合、JR西日本の同意が得られない可能性があります。
(5)並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意
新幹線の開業で在来線特急が廃止される路線は、並行在来線としてJRから経営分離され、自治体が出資する第3セクター鉄道に移管されます。地元にとっては、普通列車主体の地域密着ダイヤに転換する点がメリットですが、運賃値上げは避けられず、自治体が赤字経営を受け入れるなど負担も少なくありません。
そこでJRに整備新幹線を押し付けないのと同様に、自治体にも並行在来線を押し付けることがないように、経営分離の同意が必要としています。多くの地域では新幹線誘致の「代償」として並行在来線の受け入れはやむなしと考えていますが、小浜・京都ルートは滋賀県内を通過しないにもかかわらず、(現在の原則から言えば)特急「サンダーバード」が走る湖西線が並行在来線に指定される見込みです。
滋賀県が「湖西線は並行在来線ではない」と主張すれば、JR西日本は「どれが該当するかは明確ではない」と言葉を濁しますが、いずれにせよ、いつかは白黒つけなければならない問題です。
西九州新幹線における長崎本線・江北~諫早間は、鉄道施設を佐賀県と長崎線の出資する3セク「佐賀・長崎鉄道管理センター」が保有し、JRが運行を担う上下分離方式とすることで、「並行在来線」ではない=沿線市町村の同意を必要としないと整理した事例がありますが、北陸新幹線の場合は、そもそも滋賀県が反対すれば話は進まないでしょう。
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このように北陸新幹線・敦賀~新大阪間の着工には、ルート選定以外にも様々な課題が立ちはだかります。国交省が目指す2025年度の着工は、かなりハードルが高いと言わざるを得ません。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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