ストレスどこへ? 独海軍「激レア艦」のストイックすぎる余暇と“奥の手”とは 准士官に聞く船上生活
余暇もストイックな船員たち
こんなに巨大な軍艦なのだから、7か月間も洋上で過ごすクルーたちのストレス緩和のために、カラオケ、ボーリング、プール、ヘアサロンなど、豪華客船並みに施設が充実しているのだろうと思ったのですが、大まじめなドイツの軍艦にそんな浮かれた施設は何一つありませんでした。あるのは、ジムのみ。
ジム設備も、いたってシンプル。ランニングマシンに、ボート漕ぎマシン、ダンベル、エアロマシン、サンドバックなど。洋上での缶詰生活にもかかわらず、さらに船内のローイングマシンでボートを漕ぐのかと、ストイックさに目を見張る、逆の意味での驚きはあれど、それ以外に驚くような豪華な設備は何もないのです。
しかも、有事には身を挺して戦わなくてはならないドイツ海軍兵たちは、男女関係なく、勤務中に運動をして体を鍛えることが義務になっています。業務で利用するジムなのに、「余暇は何をして過ごしているのですか」という問いに准士官から返ってきた答えの筆頭が「ジムで汗を流す」なのだから、あまりにも徹底した修行僧のような生活ぶりに言葉を失いました。
ちなみに、ジムの次に挙げられていたのは「読書」。どこまでもドイツ人らしい答えに感心させられますが、ストレス発散は本当にできているのか、他人事ながら多少、心配になります。
インド太平洋の平和のためにはるばるやって来たドイツ艦隊。何事にも実直なドイツ人の中でも粉骨砕身の努力を怠らない、鋼のメンタルの持ち主でないと、フランクフルト・アム・マインの船員は務まらないようです。
即席の星空映画館
そんな余暇も精励恪勤(せいれいかっきん)な「ドイツ人の中のドイツ人」というような「フランクフルト・アム・マイン」の水兵たちですが、安心してください。同艦には、大型軍艦ならではの奥の手の娯楽がありました。洋上の「星空映画館」です。
巨大な艦上には幅23m、長さ27m、テニスコート2面半ほどの、ヘリコプターも離着陸できる大きなデッキがあります。大海のど真ん中で、摩天楼も何もない漆黒の闇に包まれる中、そのデッキの上にスクリーンを立て、野外での映画上映会が催されるそうです。
直近では、日本寄港の2日前(8月18日)に警察学校でのドタバタ劇を描いた米ハリウッドのコメディ映画『ポリスアカデミー1』が上映され、映画館らしくポテトチップスと飲み物が提供されたそうです。日本のはるか沖で、真っ暗闇の中、日頃は粛々(しゅくしゅく)と業務をこなす海兵たちが『ポリスアカデミー1』を見ながらお腹を抱えて大笑いしたのかと思うと、なんだか一気に親しみが湧きます。
猛暑の東京で、炎天下でも背筋を伸ばして整列する姿が印象的だった「フランクフルト・アム・マイン」の乗組員ですが、日本を離れ沖合に出た後、どんな映画でストレスを発散したのか、気になるところです。
【了】
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
コメント