「恥ずかしい」「2024年とは思えない」 鉄道会社の“ポンコツ内情”に全英唖然 市長が激怒したIT化を拒む「英国流のブラック言い訳」

英国メディアが英国第2位の鉄道運行会社を「恥ずかしい!」と一斉に報じました。英国中をガッカリさせる現状が次々に露呈したのです。何があったのでしょうか。

1980年代のままだった社内連絡

 さらに、市長を「2024年にこんなことがあり得るのか!?」と激怒させた極めつけの恥ずかしいこととは、数兆円の巨額投資がむなしくてめまいがするような、想定外な事実でした。なんと、運転士のシフト勤務の調整が、まさかのファクスで行われていたのです。

 ファクスでのシフト勤務調整はすり合わせに何日もかかる上に、社内のファクスが壊れていることも多いそうです(フィナンシャルタイムズによる)。

 ネットでライブ中継されていた臨時会合で市長が怒り狂ったのも無理がありません。「なぜファクスが使われているのか」と何度も確認する市長に対し、英国紳士的な口調を崩さずに、のらりくらりと事実を認めるノーザンの幹部たちの様子は、まさに英国のブラックユーモアたっぷりの映画のワンシーンのようでした。

 ファクスを明日にも廃止しろと詰め寄る市長に対して、ノーザンの最高執行責任者が「一筋縄では行かない」と弁明する流れで、「このように(市長に)強制されてファクスを廃止するよりも早く、ファクスというサービス自体がそのうちに終了になるでしょう」と発言し、英国中で最後のファクス利用者になるまで使い続けようと思っている、やる気のなさと危機感のなさが浮き彫りになりました。

 市長とノーザン幹部との間で繰り広げられた、ファクスの廃止を巡る攻防戦はSNS上で瞬く間に拡散され、英国メディアからも「1980年代の技術に支えられた鉄道」「運休になるのも不思議はない」「巨額投資でアップグレードしたにもかかわらず末端はファクス」とこき下ろされたのです。

 ノーザン社内でもファクスの廃止は議論されていたようです。オンライン雑誌「MailOnline」によると、5年ほど前、会社から列車の運転士にシフト勤務管理用のタブレット端末の無償配布を打診したそうです。運転士は概ね乗り気だったようですが、運転士の労働組合がタブレットの操作という「新技術の習得」を強制される代わりに賃上げを要求したというのです。いちゃもんにも近い賃上げ交渉術には逆に感動すら覚えますが、もちろん、交渉は決裂。現在も運転手のシフト管理はファクスのみで行われているということです。

「恥ずかしい!」「1980年代の通信手段を未だに使っているなんて、こんなに巨額投資したお金はどこに消えたんだと全国民が疑問に思ってる!」市長の怒りは、まだしばらく収まりそうにありません。

【了】

【青と黄】カラフルなノーザンの列車を見る(写真)

Writer:

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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