名神全通50周年 国内初の都市間高速、日本人技術者の奮闘

アスファルトの上にアスファルトを敷く日本

「大陸と日本とじゃ地形や地質も全然違うんですよ。日本ほど場所によっていろいろな地形や地質が出てくる国はないんです。私は若い頃、満州にいたからわかるけど、大陸ってのはけっこう均一なんです。でも日本は地形も地質も猫の目のように変わる。極端な軟弱地盤もあって、そういうところに6メートルも土を盛ったら、どんどん沈下してしまう。それをどうするか、実際に造って実験して、失敗を重ねてね」(稲田名誉教授)

 当初の実験では、6メートルの盛土が最大1.5メートルも沈下したそうです。そしてこれを抑えようと、地層の水を抜くために砂をパイプ状に挿入する「サンドドレーン」などの対策や、盛土のローラーでの押し固め方など、具体的なノウハウが蓄積されました。

 アスファルト舗装の下の基礎は、アウトバーンなど大陸ではコンクリートを使うことが多いですが、日本ではそこにもアスファルトを使うようにしたのも、「アスファルトならある程度柔軟だから、多少地盤が沈下しても変形してくれるでしょ。路面が凹んでもね、アスファルトで上から埋められる。でも、コンクリートだと割れちゃうんですよ。値段も高いしね(笑)」(稲田名誉教授)。

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かつて日本道路公団の名神高速道路試験所で次長を務めた稲田倍穂東海大学名誉教授(2015年6月、下山光晴撮影)。

 日本では、独自の構造設計が必要なのはもちろんこと、場所ごとに構造を柔軟に変更しなければ、高速道路の平滑な路面は実現できなかったのです。それは稲田先生など当時の日本の技術者が試行錯誤を重ねた末に一から編み出した、独自の技術でした。

 当時、日本は高速道路建設に関しては未経験の後進国でしたが、先進国から一部技術指導を受けつつも、多くは自ら短期間で開発したのです。そのことに、日本人として誇りを覚えずにはいられません。新幹線は世界初の高速鉄道、しかし名神高速はアウトバーンのマネ、と思ったら大間違いでした。

「でもね、私が名神を造ったなんて、そんなことは絶対書かないでくださいよ。私はそんな大層な者じゃないから」(稲田名誉教授)

 そう書きたくなっていた当方の気持ちを読まれてしまいましたが、いずれにせよ、半世紀前の日本人が成し遂げた偉業に、改めて敬意を表したいと思います。

【了】

Writer: 清水草一(首都高研究家)

1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』などの著作で、首都高研究家/交通ジャーナリストとして活動中。

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