ウクライナの“戦後”見据えた動き加速? ゼレンスキー大統領が開戦3年を前にわざわざ中東へ 一体なんのため?
ウクライナのゼレンスキー大統領が2025年2月16日、アラブ首長国連邦の首都アブダビを訪問しました。同行したウクライナ外務大臣は、アブダビで開催されていた兵器展示会「IDEX」に赴いたのですが、ここにウクライナの「大きなビジョン」が見えてきます。
ゼレンスキー氏は“会場外”で成果
ゼレンスキー大統領自身はIDEXの会場には足を運ばなかったようですが、同行したアンドリー・シビハ外務大臣は2月17日の午後に、ウクライナの兵器輸出を統括するウクロボロンプロムのブースを訪れて、同国製兵器のPRに務めていたことが確認されています。

ゼレンスキー大統領は17日にUAEのムハンマド・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン大統領と首脳会談を行い、ウクライナからの輸出品にかかる関税を97%免除する、包括的経済連携協定に署名しました。この協定締結によって、「戦後」のウクライナからUAEへの兵器輸出も有利になります。
ウクライナには旧ソ連時代から、大型輸送機を開発・製造するアントノフをはじめ、旧ソ連時代にT-55・T-64戦車を開発したO・O・モローゾウ記念ハルキウ機械製造設計局と、T-80戦車などを製造したV・O・マールィシェウ記念工場など、実力のある企業が多数存在します。ロシアとの戦争が起こる前のウクライナにとって、兵器は貴重な外貨を稼げる重要な輸出産品のひとつでした。
戦争勃発後のウクライナの防衛企業は自国の需要を充たすことで手一杯だったため、外国への兵器の売り込みにまで手が回らなかったようですが、ウクロボロンプロムは外国で開催される主要な武器展示会への出展を続けてきました。2023年7月にトルコのイスタンブールで開催された「インターナショナル・ディフェンス・インダストリーフェア」では、史上初めてヘリコプターを撃墜した無人航空機(USV)「マグラV5」を展示するなど、出展規模は確実に開戦前へと近づいています。
2025年2月23日付の読売新聞は、ウクライナが国策として無人機産業を育成していくと報じています。また、前に述べたシビハ外相もIDEXの会場で「戦場ですぐテストできるため、高品質な製品を提供できます」と述べ、自国製兵器、とりわけ無人機のアピールを行っています。
ウクライナはロシアとの戦いで流した血と汗と涙の代償として、貴重な実戦データを獲得しています。そのデータを活用して兵器を開発し、輸出して外貨を稼ぎ、戦争の継続と国家の再建・復興につなげるのは合理的な考えだと筆者は思います。
それ故に今後のウクライナが、第二次世界大戦に敗れた日本やドイツのように、アメリカの主導で「兵器の輸出などとんでもない」と考える国になるという「幻想」も、抱くべきではないとも思います。
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
「ゼレンスキー大統領は戦争開始後にスウェーデンやアメリカなどを訪問していますが、ウクライナから移動に時間がかかる日本での議会演説はオンラインで実施。〜」とありますが、広島で行われたG7サミットにゼレンスキー大統領はおいでになられています。